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ずうっとそうしていたかった

明晰さ、

敏感さ、

ある朝、二つの言葉が、なぜだか歩みをそろえて、
私のところにやってきた  

よくわからないまま,目を擦ったり
頬を叩いたりしているうちに

明晰さ、という言葉が
何やら独特な声で喋り始めた 
敏感なのとは違うんだ

敏感さ、は、どうやら生き物ではないらしく
ふいごのようにただ身体の周辺で膨らんだりしぼんだりしていた。

明晰さ、は、頭脳というより
むしろ肌感覚、如何みたいな印象で
きめ細かく周辺の空間を正確にとらえては、
空気の穴まで再現してしまう、
冷静な精密機器のようだった。

敏感さ、は、反応だ。
境界線がたぶんしっかりとある。
浸透性はない。
無機質な肌を案じて、頭脳が下したお節介だ。

やだやだやだやだやだ

珍しく明晰さ、が駄々をこねる
もう嫌なんだと。
孤独なんだと。

敏感さ、みたいに気遣ってもらいたいのに
明晰さ、はどちらかというと煙たがられさえする

もっと感情に訴える言葉でありたかった。

明晰さ、はどれだけ頑張ってもロマンチックとは程遠い。求められるのは合理性だ。

敏感さ、は上手に感情に訴える。
いや、感情に訴える装置なんだ。
明晰さ、はどうやら、その装置に興味があるようだった。

どちらにしても1人だった。
明晰さ、は少し休むのだそうだ。

ずうっとそうしていたかった。

相変わらず膨らんではしぼむふいごみたいに
決まった動きを繰り返す敏感さ、の前に

明晰さ、は、わざと大きな荷物をおいて
そっと旅に出た。

全身から触手を伸ばして海に浸かり、悠々との空を眺めた。

感じたことのないものが、
腹の底から湧いてきた。

笑って笑って笑って、
そこにこだまする自分の声を
明晰さ、は初めて聞いた。

トンビの飛ぶ方向に
笑い声がかき消されないように、
遠くの波を
気が遠くなるまで飲み込んだ

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