Les modes passent, le style est éternel 流行はうつろう、けれどもスタイルは永遠だ
先日のこと。新市街のハルティ公園前の広場にモロッコ伝統工芸の見本市が立っていて。なんとなくふらり入ってみた。
マラケシュからはもちろんのこと、モロッコ全土から職人や問屋、女性組合などが集まりブースを出していた。
一周見終わりかけたところで不意に名前を呼ばれた。わたしの名前を正確に発音できる人はそう多くない。よっぽど関係が長いか深いかのどちらか。
振り返ると、意外にも一瞬では誰だったかを思い出せない人が笑顔でたたずんでいる。あれあれ、えっとえぇっと、、、あ!昔々によくお世話になっていたランプ屋だ。
彼の「髪の毛短くしたんだね」という言葉を皮切りに、記憶の奥の奥から懐かしい時間やフレッシュな気持ちがよみがえってきた。
短いのもそうだけれど。当時のわたしの髪は今より豊かだった上にくりんくりんパーマをかけていて、確かに記憶に残りやすい髪型だったのかしら。
わたしが自分の小さな会社を登記した約10年前。一番最初は買付代行業者と称して、バイヤーのための買い付け・輸出の代行サーヴィスやOEM(セミオーダー/受託製造)を屋台骨に出帆した。
思い起こすと、ありとあらゆる業種の方々から本当にいろいろなお声がけをいただいた。
忘れられないのは熱狂的な愛猫家による保護団体のためのオリジナル猫耳バブーシュ。本当に作る意義があるの?と自問自答し葛藤しつつも、誠意を尽くして一生懸命に取り組んだ商品。
それでも今振り返ってみると、この時の(反面教師的な意味での)経験が今のわたし自身の動物愛護のアクティヴィティの動機付けに繋がっているのだろうなと思う。
それにしても思いつきのように始めた業種だったにも関わらず、よくぞここまで仕事をいただけたものだと思う。今さらながら改めて本当にありがたいことだと、足を向けて寝られない方角ばかり。
先のランプ屋と知り合ったのもデビューしたての黎明期のころだった。
東京の中心にサロンをオープンする方からのご依頼で装飾のためのランプをたくさんご要望いただいたとき、スークをしらみつぶしに歩いて歩いて歩き回り、それでもこれというものが見つけられなかったとき。
やるせなくなったころ、小さな細い路地の奥にたたずむ、もう本当に見落としそうな一坪ショップにたどり着いた。すると店の主が「工房と倉庫が郊外にあるから、今から見に行こう」と提案してくれたのだった。それが例のランプ屋。
言われるままにバイクの後ろにまたがって、今よりも土地勘が全然なかったから今となってはあれが一体どこだったのか思い出せないのだけれども、とにかく結構な田舎の風景の中を走って行ったのは覚えている。
そこからさらに記憶の旅が続いた。
ところでそのサロンって、どんなサロンでなんていうところだったかしら?
あれれ?そうだ!アーユルヴェーダのサロンだったはず。メールのやり取りをしてくださっていた方は男性で、確か南インドで長年アーユルヴェーダの研究をなさっていて、確か南インドにはご自身が営む団体もあるはずで。。。
そしてわたしのサイトにたどりつく経緯についてもお話ししてくださったのだった。なんでも、恐れ多くもわたしがホームページに載せていたマハトマ・ガンディーの言葉が検索にヒットしたということだった。
Happiness is when what you think, what you say, and what you do are in harmony.
幸せとは、あなたが考えること、あなたが言うこと、あなたが行うことの調和が取れている状態のこと
自分の手でホームページを作ったとき、なぜか生真面目にも「企業理念」を掲げなければと思って、もともと座右の銘としていた3つのフレーズを載せていた。その一つが上述のガンディーの名言。
ランプの依頼主の方は、経験値が低いわたしに対しても一貫して敬意を持ってお付き合いくださり、大人の方の思いやりと寛大さ、優しさに守られた中で働かせていただけたこと、本当にありがたいことだった。
懐かしさと感謝の気持ちに後押しされて、サロンの現状について検索してみた。わたしが送ったランプの写真が掲載されているのを見つけて、10年越しでうれしさと温かい気持ちに包まれた。
南インドの施設の写真も見ることができた。それでびっくり仰天、もう飛び上がるほどに驚いたのが、数年前にわたしたちが訪れたアーユルヴェーダの施設のすぐそばの立地だという事実。
あろうことか南インド旅の間、わたしはこの方のことを一度たりとも思い出すことがなかった。それなのに意図せずも目と鼻の先のすぐそばまで伺っていただなんて、なんて罰当たり。
この時の南インド旅は、当初はケララin-ケララoutで3週間のすべてケララ一都市滞在を予定していたところを、前日の大雨で空港が浸水してしまい、どたんばで旅程の変更を余儀なくされた。
インドの神々がなんらかの理由から、旅の最後の出発数日前までわたしたちをケララに入れてくれなかったのではないかと思っている。
もしかしたら、恩人の存在を忘れ去っていたこと、これが神々の逆鱗に触れたのかしら。
それでも、ようやくここまで思い出せたこと、とてもうれしい。
あの日、不意に声をかけてくれ、あのとき、数々のオーセンティックなランプを提供してくれた彼は、きっとわたしの人生のある一時期において必然的に現れてくれたのだ。
人生の筋書きはいつだって不思議。
蛇足ながら、当時サイトに載せていた残りのふたつ。
Think Globally, Act Locally
広く大きな視野で考え、できる範囲の身近なことからアクトせよ
バックミンスター・フラー
Les modes passent, le style est éternel
流行はうつろう、けれどもスタイルは永遠だ
イヴ・サン=ローラン
8月1日はYSLの誕生日。今日この日にこの言葉を反芻できたことには、きっと意味があるはず。
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