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パンのレシピを変更するということ

パン教室で必ずでてきた質問

昔よく出ていた質問のひとつが「このレシピで粉を◯◯に変更したいのですが、その時はあわせて変える箇所はありますか?」とか「私は◯◯という粉が好きなのでその粉でこのパンを作りたいのですが」という質問です。

ビアンキュイではもうだいぶ前からこの手の質問はなくなりましたが、他の教室ではどうでしょうか。やはり無くなってきているのでしょうか。

たしかに手持ちにない粉をわざわざ購入するのはちょっともったいないという気持ちはわからなくはありません。
代用できるものなら代用できた方が良いしそれが手持ちの粉ならいうことありませんね。

でもそれはパン作りの初心者が起こす勘違いだと言わざるを得ないと思いますし、たとえパン作りの経験が何十年あったとしてもそういう質問をする人はパン作りのことがあまりわかっていない人だと私は思っています。(ちょっときつい言い方になってしまって申し訳ありません)

もちろん、聞いたようなこともないような粉を使ったレシピで、家庭製パン向けのショップでは手に入らないような粉や30kg単位でしか販売されていない粉の場合は全く別です。私がいっているのは、1KG~2KG程度で、全国どこにいても購入しようとすれば購入できる粉を対象にして、その代用を質問してくるケースです。

なぜこの質問がナンセンスかというと、大きな理由は2つあります。

一つ目の理由

まず1つ目は、プロのシェフがレシピを公開する場合、その粉をなんとなく選んでいることは無いということです。
当たり前ですよね。修行時代も含めて、何十年物経験を踏まえてシェフはその粉をわざわざ選んでいるのです。

ということは、シェフが選んだ粉を変更したいということは、シェフのレシピより私の粉を使ったレシピの方が美味しいといっているのと同じです。
もちろんたいていの場合はそう受け取られないように、「家にこの粉がたくさん余っているから」とか「この粉で作って味を比べてみたいから」とかいろいろ前置きをつけますが、結局意味としては変わりません。

シェフの方はもう慣れっこになっているので、「失礼な」などと顔色を変えたりすることはありませんしニコニコしながら応対してくれますが、その心中を察するに余りあります。

でもこの理由は2つ目の理由に比べれば大したことはないかもしれません。

二つ目の理由

プロのシェフのレシピを変更しようとする人は、パン作りのことがあまりわかっていないと考える理由の二つ目。
それはプロのシェフのレシピは粉の特性を計算して、焼き上がりのイメージを実現するように工程が組まれているといことです。

ここでいう工程とは、生地の「発酵」と「熟成」をすすめて理想的な状態で窯に入れるということです。
ここでは仮に「発酵」とはガスを発生させて生地を膨らませること、「熟成」とは粉の成分を分解して香りや甘みを出すことと定義しましょう。

どちらも酵母と水のおかげでおこる作用ですが、この二つは同じスピードで進んでいかないことが重要なポイントです。
要は発酵が早く進めば、同じペースで熟成も進むわけではないということです。

この現象は、例としてイーストを大量に入れて短時間の発酵で作ったパンをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。パンは膨らんでいても、味も香りもとても弱いパンになるのはある程度経験のある方なら誰でもわかると思います。

発酵と熟成はばらばらに進む。そして粉によってこのばらばらさ加減が微妙に変わってきます。そ
れは小麦粉によって水が入る量や含まれる酵素などの量が変わるからです。

プロのシェフはそのバラバラに進む二つの作用がちょうど理想的なタイミングで窯入れになるように、配合や工程を計算して組んでいます。かってに粉を変えたり給水を増やしたりすることは、このタイミングを狂わせることにつながりかねません。

もちろんそのタイミングを自分で再計算できて、理想的な工程管理ができる方は自由に変更すればよいわけですが、そういう方はそもそも質問する必要もなく、だまって変更すればよいわけです。もっともそこまでできるほどのレベルであれば、普通のパン講座を受ける必要もないのではと思いますが。

シェフのレシピはこのような複雑な計算が背景に隠れています。その計算の中で製法が決まり、粉が決まり、酵母がきまり、水が決まっているのです。

それを動かすということはとても怖くてできません。たとえば食感が好みになったりすることがあったとしても、最も大切な粉の甘味やうまみが弱くなってしまうのが明らかだからです。

個人的な興味で実験的に変えてみることは私にもあります。給水を上げ下げしたり、粉を変えたりしてどれくらい変わるのかということを試してみたくなり、変えて焼き上げまでもっていったりしますが、びっくりする程、別物になってしまいますし、何より美味しくないです(笑)。

まずは徹底してレシピ通りにつくってみる

自分で発酵と熟成の管理ができないのであれば、まずはシェフの指定したレシピの通りに作ってみて、シェフが意図した通りの香りやうまみが出るパンになるまで何度も練習する。それができるようになったら、自分の好きなようにアレンジすればよいわけです。

アレンジしたものはもうシェフのレシピ、シェフのパンではありませんから、何をどう変えるにせよそれは自分で考え、自分で決めていく必要があると思います。

このようなことがわかってくると、レシピの粉や水の量を変更する質問は自然としなくなります。
質問をすること自体にが意味がないということが理解できてくるからです。

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