2024夏一首評10

たくさん生きて一回死ぬのだ僕たちも 夏この成層圏の明るさ
/堀静香『みじかい曲』

 なんかもう、別に僕がなにか言うことないんですけどね。ってなる歌がたまにあって、この歌もそういう歌だなと思います。箴言的な上の句、一字空け、象徴性を持った下の句の描写、ぜんぶバチッと決まってますよね。

「たくさん生きて」るなあ、と確かに思います。生きる時間の長さもそうだし、その面の多様さもそうだし。でも死ぬのは一回だけ。「僕たちも」と言われることで、それがずっと繰り返されてきたことなんだっていうのが、わかるっていうか、入ってくる。そういうところが、箴言的に決まっているなあと思う。

 この歌は「この夏」じゃないのが印象的なんですよね。「夏」「この成層圏の明るさ」。生きること死ぬこと、その繰り返しみたいなところを超越した地球規模の描写。「夏」という季節を限定しながら、そのうちのひとつの「夏」には限定しない。それが翻って、「一回死ぬ」ことの、一回限りという限定性が強調されている、気がする。

 なんだかおおげさな言い方になりそうですが、読んで、読む前からこの歌のなかに自分がいたんだ、と思えるような歌だなと思います。それは普遍性があるからというだけのことでなく。「僕たちも」に疑いを持たせない歌は、強い。

風が鳴る ほんとうになる ビニール傘の半透明が見せる青空

天国へゆくことだけをこの世のめあてのように鳩の首のきらめきは
/堀静香『みじかい曲』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?