2024夏一首評08

虎が雪に寝そべって目を閉じている 自動でループ再生になる
/相田奈緒「背骨」

「現代短歌」104号(2024年9月号)

 この歌って「ループ再生になる」まで読んではじめて動画になるんですよね、描写の対象が。その構成がすごいなと思いました。

「虎が雪に寝そべって目を閉じている」という書き方はむしろ静止的ですよね。つまり、たとえば「目を閉じていく」と書けば多少なり動的な印象を与えられると思うんですが、この歌では「目を閉じている」と書くことを選んでいる。
「寝そべって」というのも、言うまでもなく、静止的ですよね。積もっているのであろう「雪」もどちらかというと静止的。そのあたりの、言葉から立ち上がる印象の指向性とでもいうか、そういったものがものすごく精緻にコントロールされているなと思います。

 そういったことが積み重なって、さっき言ったような構成、これは偶然ではない、と読者にわからせてくるわけです。

 静止的、静止的と言っていますが、これはけっきょくこの歌が最後で動画になるからこそ、その対比として浮かび上がってきているわけで、たぶんそうじゃなかったらわざわざ静止的だとは思わなかっただろうなと思うんですね。最後で動画になって、画面が動き出す、その予感が示される。時間が動きはじめる。動きはじめた、と認識してはじめて、それまで時間が止まっていたことに気付く。あるいは、時間が止まっているかのようにそれに見とれていた自分に気付く。ほんとうにそうだったかはともかく、そのような感じを覚えさせる。
 それがたぶん、ここにしかない。ここにある。

落雪の音に集中していくと他の音まで大きく響く

草のある所に座る 本当に月はだんだん遠ざかるって
/相田奈緒「背骨」

「現代短歌」104号(2024年9月号)

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