小泉純一郎が進次郎の総裁選出馬を認めた、と言うけど、それはないんじゃないか
▼平成時代から取材活動を続けてきた記者は、小泉進次郎を見るとき、常に小泉純一郎の幻影を見るようだ。2000年代初頭、小泉純一郎は総理大臣として圧倒的人気と支持率を誇った。純一郎が動けば、進次郎には強い追い風が吹くと考えるらしい。
私は週刊誌編集記者時代には、小泉政権の郵政民営化、新自由主義的規制緩和に対して批判し続けた。今でもそれへの批判は変わらない。だが、自民党の原発推進政策を純一郎は間違っていたと謝罪して脱原発の運動を推進している点は評価しているという立場だ。私は政治家ではないのでできるだけ是々非々でありたいと考えている。
▼さて、今回の進次郎の総裁選出馬でも進次郎の背後に、純一郎が蠢いているかのようなニュースが断続的に見受けられる。純一郎が自民党の重鎮たちに影響力を行使していると言いたくてたまらないようだ。記者や読者が好む物語に沿った事実にひっかけて、記事を作ろうとしているように見受けられる。
▼そんな記事の一つに思えるのが、9月20日・27日付『週刊ポスト』の特集だ。
<内幕レポート 愛息・進次郎の総裁選で”狂乱の小泉劇場”がふたたびーー小泉純一郎が動いた>と題する記事。<出馬を「解禁」した瞬間>という小見出しもある。
7月中旬にジャーナリストの田原総一朗が同席した森喜朗元総理、中川秀直元党幹事長らの会合で、「50歳まで出馬禁止」と進次郎に言っていた小泉純一郎が「私は反対しない」と発言。田原氏が証言し、これが進次郎出馬のゴーサインになったと編集部は解説する。
純一郎がゴーサインを出したので純一郎が会長を務めた清和会も進次郎の応援に回った。さらに進次郎には小泉純一郎の右腕として働いた竹中平蔵が総務大臣として副大臣を務めていた菅義偉も後見人としてついた。こうして進次郎の支持勢力は拡大。「小泉劇場」が起きるのか、という内容だ。
▼色々な分析は自由だが、疑問が湧いたので、同誌が真剣にレポートをしているという前提に立っていくつかポイントを見てみたい。
先日、配信した「支援状況リスト」では清和会系はどちらかといえば高市早苗を支持しているとされる。近年、清和会で圧倒的な力をもった故・安倍晋三に近い候補者は確かに高市だ。石破茂も小泉内閣で防衛庁長官だった。
▼余談だが、進次郎を支える菅義偉が約8年間、内閣官房長官を務めていた領収書なしの官房機密費(報償費)はどこにいったのか。年間12、3億円と見られる。今回の選挙で使われるのか気になる。
官房機密費は当然、機密だが、かつて機密費支出リストが出回ったことがある。真偽は不明だが、そのときは、政治評論家などに、その裏金の金額が書かれていた。その金額の大小で評論家の評価がうかがえて面白かった。民主党政権時代にも同趣旨の鈴木宗男が質問主意書を出している。さすがお詳しい。
▼話を親子の話に戻そう。9月6日に出馬記者会見を開いた進次郎は、父に相談せず、事後報告になるとフジテレビのインタビューでも発言している。
▼つまり、父親とはいまだに話していないと思われる。近々報告するかも不明だ。
このことは週刊紙で書かれた、純一郎から進次郎出馬にゴーサインが出た。そうして清和会系や菅義偉が支援に回る。だから進次郎は出馬に至ったというストーリーとは矛盾はしない。
だが、結局のところ、純一郎は進次郎には直接ゴーサインは出ていないと解釈するのが素直な読み方になるだろう。相談すれば親子は対立しかねない。
▼理由は簡単だ。進次郎は原発も選択肢の一つと述べているが、純一郎は「原発はゼロ」の立場だからだ。
この原発政策における両者の対立は、ワンノブゼムの政策論争の話ではない。大きな問題である。純一郎は今も「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」の顧問を務めている。原発ゼロは、晩年を迎えた小泉純一郎が最期に実現しようとしている活動なのだだ。良くも悪くも郵政民営化にしろ一度決めたら曲げない「シンプルで強固な論理」で動くのが小泉純一郎である。となれば原発についてのらりくらりと話す進次郎を総裁に推すはずがないと考えるのが自然だ。
▼ここまでは表に出ている情報に基づく簡単な分析だが、それだけでも純一郎が進次郎にゴーサインを与えているとは考えられない。
さらに言えば、私が仄聞する筋でも小泉純一郎は進次郎にゴーサインは出していないとされる。この間、話してもいないとされる。もっぱら、小泉純一郎が肯定も否定もせず何も語らないことを利用している向きがあるだけではないか。
両者の政治家としての経験や力量や性格はずいぶんと違う。となれば、進次郎が「小泉劇場」を再現することなど期待しないほうがいい。そもそも期待するのもおかしな話である。
党利党略による解散総選挙で600億円以上(推計)の税金が使われることも忘れてはいけない。 (H)