兵庫県知事選、斎藤前知事になぜ支持が広がっているのか【国際ジャーナリストの眼】
兵庫県の斎藤元彦知事の失職に伴う県知事選が10月31日に告示され、投開票は11月17日と迫っている。斎藤前知事を含む史上最多7人が立候補しているが、県の百条委員会でパワハラ疑惑などの追及が進んでいる。一方、現地ではその斎藤前知事に予想外の盛り上がりを示しているという。選挙終盤戦では前尼崎市長の稲村和美氏と事実上の一騎打ちとの見方が強まっている。自民党は独自候補の擁立を断念、自主投票を決定している。そこで、関西圏在住の国際ジャーナリスト、エィミ・ツジモト氏に斎藤前知事支持が広がっている理由を聞いた。
平井 エィミさんは、兵庫県▪︎西宮などに足を運んで斎藤前知事の演説を見てきたそうですが、斎藤前知事の応援が広まっているとか。東京にいるとまさかという印象です。
エィミ・ツジモト 多くの県民たちはマスコミに騙されていたということで反省していると思いますよ。真偽のほどは神のみぞ知るですが、マスコミに踊らされたと思っている人は多いと思います。そのような人たちが、斎藤の街頭演説に集まっています。なぜ今回自分達は踊らされたかと。あいかわらずといってはなんですが、石破総理に総裁選前にわたくしがインタビューした際、石破さんが報道の「不公正さ」を警告されていたように、なんら建設的に報道は進んでいないですよね。現場では、老若男女を問わず斉藤候補の演説に聞き入っていたんです。心打たれて、涙している人たちもいました。「ママ友」たちも、今まで選挙には無関心だったけれど「今回は斉藤候補」に入れるんだ、と盛んに言っていましたから。
平井 そうなんですね。ところで、さきほど言われた「騙された」「踊らされた」とはどういうことでしょうか。
エィミ たとえば、パワハラってその人の受け取り方でしょう。結局「深刻な事態」で明らかになったことはほとんどないのです。斎藤前知事も認めている付箋を投げたとか、その程度でしょうに、というのが今の多くの県民たちの受け止めでしょう。
平井 8月に出された百条委員会の県職員アンケートに基づく「中間報告」を見ると、6725件の回答のうち、パワハラを「実際に知っている」という回答は140件でした。パワハラは主観的な要素もあるので、判断は難しいのですが、パワハラはあったが、実際に年がら年中、パワハラをしていたという人物ではないという結果になっているとは言えます。メディアによってもたらされた印象と、調査結果にはギャップがありました。そのインパクトが県民には大きかったということでしょうかね。
エィミ おっしゃるとおりよ。昨日、県民たちの思いをあらためて聞きました。斎藤前知事は一貫して教育重視型で県政を改革してきました。県民の進学熱も冷めている。県立高校への予算も少ない。学校のプールを修繕してほしいと訴えがあっても、それほどフォーカスされてこなかった。70万円ほどの補修費なのに。育児をしている母親も大変なんです。ところが局長が自殺して、新聞報道をきっかけに斎藤はパワハラだというレッテルばかり貼られてきて、これからという時に辞職したわけです。それはやはり残念なことだという反省が、遅きにきしたとはいえあって、市民たちは必死になって応援していると言えるんです。
平井 そこまで理解という認識が広がっているんですね。ネットでは県民局長の公用パソコン内のデータについても取り沙汰されていますが、このようなことは、選挙などに関心のある県民などには知るところにはなっているでしょうからね。
エィミ そのあたりは県民たちには急速に広がりつつあります。だからアンチ斉藤候補の人たちや他の候補者たちも、そこのところを認識する必要があるでしょう。斎藤にパワハラはなくはないでしょうが、あのマスコミの報道、あれは一体なんだったのしょうか。それ以前の、井戸敏三県政の5期20年で兵庫県の財政はガタガタになっていたわけです。それなのに県庁再編で1000億を使おうとしていた。それを斎藤は130億円に削減しようとしていた。そもそも30年前の阪神淡路大震災で庁舎をリニューアルをしているんだから新しく立て替える必要はないんだ、というのが昨日、わたくしが取材した(西宮)市民の大方の意見でした。演説中に配られていたチラシにもそのことは書かれています。もう一つ驚いたのが、彼の高校時代の友人たちが各地から応援に駆けつけていたことです。東京や、高松からもです。これには、ジーンときました。まさに兵庫版「トモダチ作戦」よ。
平井 兵庫県については、パリ、香港、シアトル、ブラジル、オーストラリアなど海外事務所が5つもあって毎年何億円も税金を使っていて、職員が何をやっているかわからないとか。そんな都道府県は兵庫しかない。「ミナトコーベ」を背景に国際都市という自負心があるのかもしれませんが、このコストカットは再建では不可欠でしょう。この点をもってしても、兵庫県の財政はかなりずさんに思えます。大阪も「さきしまタワーホテルの」の件など府民の税金が無駄金になったりずさんですけど。ともかく、公務員たたきなど目先のコストカットをやりがちな維新の応援を受けている斎藤前知事のやることには本音がわからないというか、信じてよいのかバイアスがかかっている気はしました。
エィミ 信じる信じないはともかく、一人で県庁を去っていった。「なんでやねん、することもしてくれいたやないか」。それが県民の心を動かした面があります。米国の大統領選ではトランプが大勝利して日本人は驚いたと思いますが、この兵庫県知事選も、外からみた思い込みと、実際の住民の目線には相当なズレがあると思いますよ。一人の報道人として、県民・市民の思いや期待を率直に報道するのも報道関係者の「矜持」のはずなのです。違いますか?
(終わり)