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【エィミー・ツジモトが読むアメリカ④】 ラストベルトの熱狂的なトランプ支持者
アメリカ政治に影響を与えている企業や大富豪と政治家の関係を軸に話を聞く4回目。(インタビューは7月11日)
◇退職金よりも重視される福利厚生
平井 シチズン・ユナイテッド裁判では、大統領選や上下院選挙への政治献金は国民にとっての表現の自由ということだけではなく、企業にとっての表現の自由でもあると連邦最高裁判決が認めたわけです。
そうしますと、アメリカにおける政治献金は概ね選挙に紐づいてなされているということでしょうか。日本では選挙のときに政治献金が大きく動くというよりは、むしろ日常的に政治献金がなされています。
エィミー なぜ選挙と政治献金が紐づくかというと、当然ながら自分たちの意に沿う候補が当選してくれることは献金側の利益に適うからということです。
そして、献金もきれいなカネであると表向きに見せる必要があるわけです。選挙はそういう政治献金をする企業や個人にとって価値のあるタイミングであるということなのよね。
平井 企業と言いますか、献金者はバイデンの場合、ディズニー家の人間やネットフリックスの共同創業者などが目を引きます。
献金をする企業や経営者が多額の献金を政治家にすることに対して従業員や労働組合からは批判が起きていないのですか。
エィミー その動きは弱いと言えます。大企業に勤めていると末端の人間に至るまでベネフィット(企業の福利厚生)が非常にいいからです。だから防衛産業に限らず、企業が大きくなることは従業員が働ける場所が増えることを意味するのであり、アメリカ人にとってはベネフィットのある企業で働けることがとても大事なんです。
一方で、小さなトラック会社など、小さい企業では労働組合が存在していて、ベネフィットもそれほどよくない。そのため小さな労働組合が原動力となるグラスルーツ(草の根運動)が大きなうねりになって、オバマ大統領が誕生する原動力になりました。
平井 それでオバマ大統領のときにオバマケア(医療保険制度改革法)が出てきたということですか。
エィミー アメリカ人にとって重要なのは退職金よりもベネフィット、企業保険による医療補助なのよ。ご存知のように、アメリカは国民皆保険制度ではありませんから。
2011年の東日本大震災のときに、米軍のトモダチ作戦で被爆した米兵にネイチャン•ペルスキーという男性がいました。彼が所属していた海兵隊は宮城県の気仙沼で火事が起きたときに命がけで住民を助けにいき、放射能降雨により被爆してしまったんです。彼は軍隊で5年勤めたけれど、被爆して動けなくなってしまった。だけど医療費補助が下りなかったのよ。
平井 厳しいですね。
エィミー 彼は除隊後には病で苦しんでいたけれど、シカゴの自宅に戻って一時的に助かりました。なぜかというと、彼のお母さんが大きなパン工場で働いてたからです。パンメーカーのベネフィットで、医療費補助が下りて彼は助かりました。そういうなんでもないパン工場でも、給料は会社員より低くても、医療費のベネフィットがある。なにせアメリカではMRI検査をするだけで5万ドルくらいかかります。そういう恩恵を社員は企業から受けているわけです。それがアメリカの社会構造ということね。
◇トランプが支持される根拠
平井 では、その一方で、ラストベルト(機械が錆びついた地帯)と言われる地域で、トランプ支持者がいますよね。民主党と大企業というエリートに対する不満というのがトランプの原動力とも言われたと記憶していますが。
エィミー たとえば、人口が2000人ぐらいしかいない、死んでしまったような村があります。母親はドラッグ依存症で父親は飲んだくれて子どもをしばき倒す。そういう村の家庭で生まれると海兵隊に入るしかない。そういう家庭に対してトランプは上手に語りかけます。あの顔で、あの口調で、「心配するな。俺がやってやる」と。
平井 目に浮かびますね。
エィミー もちろん、トランプがそのように自信満々で言える背景もあります。実際に共和党の力でそういう村に500人くらいが働ける工場を作ったりもしていると言っています。すると本社ほど給料は支払われなくても、医療補助などのベネフィットがあります。
シカゴなど都市部で働く会社員の給与が高い大きな理由は、社員が車で通勤するのでガソリン代のコストがかかるからなんです。アメリカは車がないと生活ができませんからね。だけど、小さな村ならば移動にそこまでコストはかからないため、給料もいくらか下がる。けれども医療補助が出るので、企業で働ければハッピーになるわけです。
トランプがどの程度まで企業誘致などを実行したかはわかりません。だけど今なおトランプに心酔している白人たち、特に労働者階級の白人たちの熱い思いを見る限り、ないわけではない。あの熱狂はそういうところから来ている面が多々あると私は思っています。だからトランプの支持者をこれ以上減らすことはできないでしょうね。
平井 民主党がやったオバマケアという形は好まれなかったということですかね。当時は社会主義者だと共和党支持者からは猛烈に批判されていましたし。国民にとっては享受する出口は同じなのに、大きな政府を嫌う共和主義者たちが企業支配を強めているというねじれや危険性を感じます。
◇ラスベルトを中心に遊説
エィミー 民主党の場合、そういう労働者層に対する具体的な施策が欠けているのよ。トランプはあからさまに、国の力でアルコール依存症のリハビリ病院に入れてやる、残された子どもの面倒はみてやる、無料でブレックファーストもランチも提供してやると言ってのけるわけ。
そうやって、ラストベルトという、錆びついて誰も相手にしてくれなかったエリアを優先して遊説して回り、巧みにキャンペーンを展開していったのよ。
論理的に政策を考えたら、(2016年の大統領選で戦った)ヒラリー・クリントンのほうが良かったし、票も勝っていたけれど、州の国会議員たちがやってくれなかったことをトランプがしようとしてくれているならそれは州民としてはありがたいと思うのは必然です。
平井 しつこいようですが、トランプのそのキャンペーンはどの程度実現したんですか。
エィミー それははっきりとはわからないの。トランプは口ではあれをやったこれをやっと言うけれども、そういった本格的なデータっていうのは今の段階で私たちジャーナリストは見ることができないのね。
見てはいないけど、あれだけ刑事告発されてもなお、トランプにしがみついてる白人労働者がいる。もちろん黒人労働者もいるわけです。
平井 保守思想だけではああはなりませんものね。例え話をすればミスリードになるかもしれませんし、国もタイプは違いますが、バラマキをやった田中角栄に対する熱狂的な支持者を思い出しましたよ。角栄も刑事被告人で実刑判決を受けても2回当選しましたからね。
エィミー トランプが実際に何も実行していなければ、あれだけの数の白人労働者が選挙キャンパーンに集まらないでしょう。明らかな事実としてあれだけの支持者がいる現実は認識しないと。
平井 ラストベルトの話であらためてトランプ支持者のことを少しは理解できた気がします。ブラック・ライフル・コーヒー・カンパニーなどトランプ支持者と親和性の高い成長企業やトランプ経済圏のような空間もありますし、草の根のトランプ支持者たちはもっと深堀りしたいテーマですね。
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連載 エィミ•ツジモトが読むアメリカ
日系米国人ジャーナリストが現代アメリカを政治を中心に読み解くシリーズです。 日米のバイリンガルであること、日米に拠点と情報源があり、両国…
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