汐ノ浜設定①/人魚伝説
この町には人魚が住んでいる。
美しいものが好きな人魚は、キラキラ輝くこの島の海と、白い砂浜を気に入っておりました。
岩場に寝そべり、美しい白い砂を眺めては歌をうたいます。
その人魚の美しさに、島民たちは心を奪われました。
「貴方がこの島の神様だ」
島民はいつの日か、人魚を崇め祀るようになりました。
人魚の歌に合わせて音を奏で、舞を踊ると彼女は楽しそうに笑います。
それはこの島の幸福でありました。
ある時、島に漁をしにやってきた男に、人魚は恋をしました。
あの人を追いかけたいと人魚は島民たちに祈りましたが、すっかり神様として祀られてしまっていたので、島民たちはそれを許しません。
それどころかさらに強い祈りで、この島から出られないよう呪いをかけ、人魚を島に縛りつけたのです。
しかし人魚は、恋心を諦めることが出来ませんでした。
「そうだ。ならば彼を、この海に縛り付けたらいい。」
男はまた、島へやってきました。人魚は美しい声で、男を誘き寄せました。そして、嵐を呼び起こし、男の船を沈めたのです。
もがく男を、人魚は抱きしめました。
「これで私のものになった。」
「ずっと一緒ね。」
人魚は幸せそうに歌をうたいましたが、男は当然海の中で生きていく事ができず、そのまま息絶えてしまったのです。
人魚は悲しみに暮れ、その大嵐は三日三晩と続きました。
男の死体は膨れ上がり、他の魚に突かれはじめ、その姿を見て人魚はたまらなくなり、ならばせめて一緒になろうと死体を食べました。
その、なんと甘美な味といったら!
人魚は初めて、自分の餌が何であるかを知りました。そしてそれを手に入れる方法も。
島には災厄が降りかかり続けるようになりました。
お腹が空くと、人魚が嵐を起こすようになったのです。
困った島民たちは、人魚を討伐することを決意しました。
いつものように美しい声で歌う彼女を、島民全員で捕まえて、檻に入れ、殺しました。
痛みと飢えに苦しみながらも、人魚は、やはり美しい声で歌います。
「縛りつけたのは貴方達だもの」
「かけられた呪いは、解いてやらない」
ふふっと、人魚は最期に笑いました。
「困ったら、私の血を使いなさい。骨を砕いたものでも良いわ。鱗でも良い。この島からかけられた呪いを、私は決して許さない。乾きが、飢えが、満ちるまで。」
言葉の意味を知るのは、人魚が死んですぐのこと。
島の若い男たちがみな、不審な死を遂げてしまったのです。
島民達は、それが人魚の呪いであると理解しました。
意を決した島民達は、女を1人選びました。
美しい声を持つ、若くて綺麗な娘を。
...
そうして再び、汐ノ浜には人魚の歌声が響くようになったのです。
幸福から、この島の呪いへと姿を変えて。
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