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床(成分条件)

鶏舎床にモミガラを敷いてかき回すだけで、ニオイが出なくなる理由を成分条件から見てみます。
前回は酸素に注目しましたが、今回は炭素とチッソに注目します。

そのために必要な指標が「炭素率」で、炭素に対するチッソの割合を表したものです。「C/N比」(シーエヌヒ)と呼ばれることもあります。
細胞には炭素とチッソが含まれているので、生物ならば必ず炭素率があります。

微生物の炭素率

(炭素100に対するチッソの消費から炭素率を換算)
嫌気性細菌  チッソ0.3 ~ 0.75 C/N比 133~333
好気性細菌  チッソ0.75~ 1.5  C/N比 67~133
菌類     チッソ4.5 ~ 7.5  C/N比 13~22

こう並べるとどのように感じるでしょうか。
この数値を初めて見たとき、鶏舎内の微生物のバランスをとるためには、嫌気性細菌の炭素率300以上をまかなうだけの炭素を供給しなければらないのかと感じました。でもそうではありませんでした。
鶏舎床では、分解の主役になるのが「菌類」だからです。
菌類に着目すれば、成分条件での床管理が分かり易くなります。

床の敷料となる植物資材は、一つ一つの細胞が細胞壁に覆われています。この細胞壁は、セルロースやへミセルロースやリグニンといったもので構成されており、これを分解できるのは菌類と一部の細菌です。菌類が細胞壁を部分的にでも分解し、細菌はそのキズから侵入して、そこで初めて細胞内の成分を利用出来るようになります。ですから分解の程度は、菌類の分解能と炭素率によって制限されます。
チッソが多いとは炭素率が低い事で、チッソが少ないとは炭素率が高い事ですが、それは菌類の炭素率13~22を基準としています。

微生物の活動

微生物は自分の周りに分解のための酵素を分泌し、低分子化した養分を細胞表面から吸収しています。
ここで、分解して吸収した有機物中のチッソの動きに注目します。
①チッソが多い場合
細胞成分の合成やエネルギーを獲得したあとの余剰チッソ(N)をアンモニウム(NH3)として排出します。
アンモニウムは、環境中で揮発性のアンモニアとなりニオイを放ちます。別の微生物によって、さらに亜硝酸や硝酸にまで変換される経路もあり、これもニオイを放ちます。
②チッソが少ない場合
足りない分を周りの環境からも吸収しようとします。
環境中のチッソとは、他の細菌が排出した余剰チッソや、死滅した微生物が自らの酵素で自壊・分解して成分が放出されたものです。こういったものが周囲にあれば利用します。

しかし周囲に利用できるチッソが無くなると、自らの細胞内の成分を作り直しながら、消費するエネルギーも最小限に抑える維持代謝と言う状態に入ります。
維持代謝に入った微生物は、古くなったアミノ酸からアンモニウムを切り離してアミノ酸を再合成しながら、残りの部分からはエネルギーを獲得して、余った炭素を二酸化炭素として排出します。

こうして、微生物が死滅して自らの酵素で自壊して成分が放出され、またすぐ別の微生物に吸収される事を繰り返し、全体的な微生物量は平衡状態か漸減状態になります。
鶏舎床においては、菌類の炭素率を基準として、細菌の増減が制限される理由もここにあります。

これを大まかに捉えると、チッソを使い回しながら炭素が放出されていると言えます。

畑土壌の場合は、のような利用できるチッソが不足している状態を、チッソ飢餓と呼んで問題視します。
平飼い鶏舎の場合は、ニオイを出したくないだけですから、チッソ飢餓の状態に近づければ良いわけです。
チッソ飢餓とは、チッソの量がないと言うより、チッソに比べて炭素が多いと捉えるのが適当です。
ケイフンをそのまま分解した場合は、チッソに比べて炭素が足りないのでの経路でニオイが出ます。
つまりは菌類の炭素率を基準として、ケイフンに含まれているチッソに見合うだけの炭素を供給すれば良い、という事になります。
そこで炭素の供給源として投入されるのが、植物資材です。

炭素の供給源

植物の細胞壁は、セルロース・ヘミセルロース・リグニンなどを主成分としてできています。
細胞と細胞の間にはペクチンが存在し、内部にはデンプンが蓄えられています。これらはいわゆる糖質です。
デンプンやセルロースだけでなく、ブドウ糖・麦芽糖・乳糖・デキストリン・グリコーゲンといった用語もなじみがあると思いますが、これらも糖質です。
糖質は基本的に単糖の結合によって出来ていています。単糖類・二糖類・オリゴ糖類・多糖類などといろいろ有るように見えて、単糖が結合した数で分類しているにすぎません。ちなみにオリゴとは少数という意味のギリシア語なので、イッコ・ニコ・チョット・イッパイという分類の仕方です。

図は単糖の代表格であるブドウ糖ですが、見ていただきたいのは炭素を骨格として酸素と水素で構成されているいる事。もう一つはチッソが含まれていない事です。

キシロースはヘミセルロースの材料として細胞壁となる単糖ですが、こちらも同様です。植物は、こういった単糖を結合させて主な構造を作り上げているために、結果としてチッソより炭素の割合が多くなってしまうのです。植物資材を投入すると、鶏舎床の炭素割合を上げてゆくことが出来ます。

植物資材の炭素率

敷料の候補となる植物資材を見てみましょう
モミガラ  炭素36.3% チッソ0.48% C/N75.6 ( 水分11.8%)
稲ワラ   炭素41.0% チッソ0.63% C/N65.0 (水分14.2%)
オガクズ  炭素53.4% チッソ0.10% C/N534 (水分7.0%)
針葉樹皮  炭素51.7% チッソ0.30% C/N172(乾物)
広葉樹皮  炭素49.2% チッソ0.37% C/N133(乾物)

数値だけをみれば、敷料には炭素率の高い木質資材を用意すれば良いように感じます。一概に否定はできませんが、留意点があります。木質資材の場合、細胞壁の内側に二次細胞壁というものを持ちます。二次細胞壁はリグニンの含量が多く、しかもセルロースとの複合体であるため、一般的な菌類では一部しか分解できません。完全に分解できるのは菌類の中でも腐朽菌と呼ばれる一群、いわゆるキノコだけです。分解できる微生物種が少ないという事は、分解に時間がかかるという事です。
オガクズは堆肥製造でよく使用されますが、細胞壁を機械的に破砕することで、分解の役目を肩代わりしています。しかし、鶏舎の床材料としては孔隙の確保に疑問が残ります。
さらに木質資材は、有機酸や脂肪酸・タンニン様物質など、微生物に拮抗するための物質を多く含んでいます。
すぐそばに炭素が大量に存在しても、利用できなければ存在しないのと同じです。
樹皮材料は孔隙の確保には優れているので、鶏糞の乾燥は進みますが、分解が進みにくい事は考慮しなければなりません。木質資材は、モミガラの下層に底敷きとして利用するならよいのではないでしょうか。
また稲わらは分解が早く、水分の浸透しやすさや入手性まで考慮すると、不安があります。
入手性、取り扱い、孔隙の確保、分解速度、堆肥としての利用などを考慮すると、モミガラは非常に優れています。

ケイフンの炭素率

ケイフンの成分は以下のとおりです。
ケイフン炭素11~48%チッソ0.72~23.6%
鶏糞の数値に幅があるのは、肉用鶏と採卵鶏あるいは平飼いとケージ飼いをすべて含んでいるからです。
まさとうでのケイフンの実測値は、チッソが2%、炭素は20%
ですので炭素率は10程度。

まさとうの床

以上を踏まえ、まさとうの床管理を炭素率で見てみましょう。

ケイフン(700日齢食鳥処理、100日齢導入、導入後60日は低食下量)
150羽×33g×(700日ー(100日+60日×0.5))=2,822kg
炭素  2,822×20%=564kg
チッソ 2,822×2%=56.4kg

モミガラ(比重0.3)
40L×0.3×50袋=576kg
炭素  576×36.3%=209kg
チッソ 576×0.48%=2.76kg

合計
炭素  564+209=773
チッソ 56.4+2.76=59.16
よって炭素率は13.1です。だいたい良い所に収まっていますね。

おわりに

モミガラ等の敷料を投入することを前提に記しましたが、植物資材を投入しなくてもケイフンの分解は起こります。ですから、かき回しによる酸素の供給と乾燥は大切です。
ヒナの導入直後はまだ、エサもケイフンも少量ですし、モミガラの効能もあってケイフンは乾燥しがちです。まさとうでは、導入後2~3か月を目途に、床のかき回し作業を開始しています。

とは言え、鶏舎内にモミガラを投入してかき回しても、実際にチッソ飢餓が起こるわけではありません。
モミガラは長い時間をかけて分解するので、日々排泄されるケイフンが分解する時に、必要なだけの炭素があれば十分です。あるいは、分解過程で排出されるアンモニアが、鶏の健康と人の知覚に影響のない程度であれば良いのです。必要なのは均衡を保つことです。そのための管理です。
と偉そうに記しておきますが、作業として行っていることは、床のかき回しだけです。

排泄されたケイフンに、無駄なチッソが含まれないようにするには、前段の飼料設計が直接的に重要です。
飼料として与えた栄養素が、キチンと吸収されるかも重要です。
またチッソ全量は飼育羽数に、乾燥具合は飼育密度にも左右されます。
この辺りを突き詰めてゆくと、坪当たり10羽・産卵率80%を目指す飼育の妥当性が見えてくると思います。
大意をつかむ説明はできますが、一言で言い切れるほど単純な事でもありません。
完璧な管理はありえないので、環境と作業負荷のバランスを考えて、上手に管理すればよいのだと思います。

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