鶏舎建築
農業施設を建築する場合、自作するのと業者に依頼するのとでは、どちらが良いのでしょうか。
農業を営む友人とは、いつも意見が一致します。
「対価を支払って、業者に任せるべき」
ケガをしては元も子も無いし、労力は本業で稼ぐことに集中させるべきだからです。
ちなみにその友人は、約20人で12億円以上を売り上げる生産グループの一員です。その生産グループは、ハウス新設時に仲間の助けを借りて自作をするのが慣例。グループ設立当初から、そうやって費用を抑えながら成功してきました。
その中で友人は業者にハウスの建設させたし、仲間の応援にも行かないし、若い仲間にもそう呼びかけているようです。「ケガしたらどうするんや、一人一人が経営者なんで」と気を吐くのは大変だろうと思います。
と言いつつも、まさとうでは鶏舎を自作しました。なぜそうなったかという経緯は後編で述べます。まずは当時の様子を見てください。
鶏舎を建築した敷地は、山の斜面を切り崩して平地にした場所です。当初は鶏舎の端あたりまでが平坦地で、そこからすぐ法面になっていました。隣接する山から土砂を採らせていただき、運んできて、埋め広げて現在の姿にしました。さらに、鶏舎のある場所は周囲より少し下がっていたので、直径約1メートルの巨石を敷き詰めて水平にしました。
巨石は、斜面を切り開いた時に出てきて放置してあったものです。17年経って、入り口付近の巨石が露出しています。
全工程を通して一番大変だったのは、ブロックを積む作業。コンクリートの型枠を作り、ミキサー車を依頼し、流したコンクリートが固まるのを待ち、手練りしたセメントを打ちながらブロックを一個一個積んでゆく。この作業に一か月以上かかりました。「こんな作業二度としたくない」と思えるだけの苦行でした。でも、本職の方によると「コンクリートを打設して、ちょっと乾いた頃合いにブロックをポンポン並べると早い」とか。知らない素人の悲しさです。
これまでの遅々とした進み方から比べると、柱建てはすぐに済みました。
自作と言っても、ここだけは柱の切り込み(加工)をした大工の主導です。
鶏舎は柱を組付けただけでは万全ではないので、筋交いや火打ちなどで斜め方向に補強をします。そのほか色々な金物類でも柱どうしを緊結しますが、そのためにボルト・ナットをかなり使用します。寸法の自由度とコストカットを考えて、全ネジの棒鋼を加工して作りました。
画像がないので分かりずらいですが、木材には防腐剤を塗布してあります。鶏がつつくことを考えて、植物材料だけでつくられたエコ資材を使いました。当時、幼稚園にあがる前だった姪っ子が、一度だけですがバアちゃんについて現場まで来たことがありました。トコトコ歩きで寄ってきて、木材に鼻を近づけて「バ、ジ、ル」と言ったのは良い思い出です。4リットル入りで8千円もしましたが、計4本使いました。
屋根材のパネルです。このパネルは断熱材が一体になっているものです。波板だけだと、冬に結露が発生して水滴が舎内にしたたり落ちるので、断熱材は必須です。畜産用の一体型屋根材は、作業性も性能もとても良いモノですが価格は40万円。さてさてこの価格は高いのか安いのかですが、その後の暑熱対策を考えれば、お金をかけて「良かった」と感じています。
壁材はポリカーボネイト製の畜産波板で、通称でチクナミと呼ばれるものです。金属製の波板を壁材にすると、夏場に焼けて輻射熱が発生します。対処としては屋根材と同じく断熱材を併用するか、樹脂製にするくらいだと思います。畜産波板は軽くて、安価で、寸法調整や加工も容易で、光も柔らかく透過してくれます。業者発注か大きめのホームセンターしか取り扱いがないので入手性が良いとは言いづらいですが、物としての欠点は経年劣化くらいでしょうか。このあたりの対策は、視察などで訪れた諸先輩方の経験談や失敗談から学びました。
カーテンやネットなどの展張は、地味に大変という作業です。
作業的には、タッカーという大型のホッチキスで仮止めをしてから、胴縁とコーススレット(ネジ釘)で押さえて固定するだけです。
ただし、板のようにカタければ始点と終点を押さえれば決まりますが、柔らかいものは良くも悪くも自由自在。横に張る際にズレたりタワんだりして、その分だけ全体が波打ちます。広さをともなう長物なので、作業時に自分の体との位置関係に難しさもあります。そもそもロールの巻きグセやたたみグセなど、購入時の姿に戻ろうとするので扱いづらいのですが、特に野外では風にあおられて難しくなります。
扱いづらさというより安全面の話になりますが、鶏舎の裏側のカーテンを展張していて弾き飛ばされたことがあります。仮止めして位置を修正しようと脚立に上がったとたん、カーテンが風を受けて膨らみ始めました。弾かれる寸前で飛び降りたので、少し投げ出された程度でしたが、脚立は崖下まで音を立てながら落ちてゆきました。
写真はカーテンや屋根や壁を固定する時に使用した道具類の、ごく一部です。ここにお金や時間やケガのリスクをかける必要があったのでしょうか。
あとは給水設備です。本当はボーリングで水源を確保したかったのですが断念しました。見積もりが70万円から140万円くらいで、上手く水脈を捉えたら安くなるけど運次第との事。水道なら加入金やら部品代やら施工費やらで30~50万円、タンクやポンプは一体型なら16万円くらいかかります。ちょうど家の建て替えをする方から話があって、一体型ポンプを譲っていただけたので、ここは費用を抑えられました。
頂いたポンプを設置しましたが、そのままの吐出圧では給水器から水が飛び出すので、回路の途中に減圧弁をかませて圧力を調整する必要があります。ポンプと減圧弁と配管と給水器を設置して、いざ稼働させましたが水が出ません。ポンプは動いているのに水が出ない。アレコレいじって数時間後、とうとう諦めて水道屋の友人に連絡して来てもらいました。
一目見て「これ減圧弁じゃろ、低い所で減圧したら高い所に水が上って行かれんで、高い所に送った後で減圧せんと」と笑われました。パイプを継ぎ変えて「工賃3千円って言いたいところじゃけど、友人価格で2千円にしてあげる。」後々までの作業性を考えたつもりで、ポンプの吐出側すぐの所に減圧弁をつけていたのです。普通に考えたら分かりそうなものですが、冷静さを欠いていたのかもしれません。浅はかな素人施工に対する授業料でした。
井戸も設置しました。造成した場所なので水は出ません。この時期になっても地元の方がチラチラとおいでになって「ここは集落より高い位置にあるので飲み水が汚れる、汚水処理はどうするんだ」とおっしゃるので「ここに捨てます」と言うためです。一番下の井皮はコンクリート底板がついたものを使いました。「ためた水は漏らしません、たまったら汲み取ります」と言いながら見せる為です。実際には鶏の尿は個体なので液体のオシッコはしません。だから汚水は出ないのですが、何度説明しても聞いて頂けなかったのです。まあ、同意書に署名をしようが捺印をしようが、批判したい方なんてものはそんなものなのでしょう。
新築ピカピカの鶏舎がうれしくて、夜の点灯や夜明けの姿を撮影していました。
初めてのヒナの導入でようやく開業です。
後編は鶏舎を自作することになった経緯や、いろいろな方に手伝っていただいた事に対する自分の気持ちなどを述べたいと思っています。開業を迎えて前向きになるべきところですが、なんとも後ろ向きの話になると思いますので、カーテンの必要性や水確保についての詳細に別の一章をたてた後、時間をおいてから書きます。
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