団地飼い (2019年笹井宏之賞応募作)
ヨソモノは出てけと団地のベランダで今年入居の老人叫ぶ
お母さん今の彼氏と暮らすにはわたし邪魔でしょ口で言ってよ
あと一つ母に聞けない事がありこの乳輪って遺伝ですかね
なまぬるい風がまとわりついてくるロングスカートは転ぶために穿く
リスカとかオーバードーズはしない主義偶然怪我をするエキストラ
若い頃舞台女優だった母はバイトのホステス本業となり
寝たきりの少女が暮らす団地の花壇に今年も白いカラー咲く
カラーって性別どちらかわからない花はそんな事は思わない
母親がママと呼ばれるスナックで週に五日のボランティアする
中指の先のない手で撫でてくる毎日スナックに来るおじいさん
パパが亡くなる日はじめてのキスしたわたしのせいで死んだ気がした
幸せになれと言ってくれたパパはなり方教えてくれずに死んだ
ふすま越し母と男の声を聞き発酵していくわたしは臭い
形状はだいたいシャワーと同じでしょ雨も裸で浴びていいはず
幼い日母のセックス終わるまで玄関で蚊に刺されてました
何もかも全部捨てたい、捨てるものなんてなかった、捨てられていた
さきいかにマヨと七味をかけたやつうまいな更におかずにもなる
欲しいのは愛 でも先におこづかい友達とイオン行きたいんだよ
前頭葉クラッシュしてる老人は悪態つかずにスナック来なよ
桃ちゃんと呼ばれる母の源氏名はピンサロ時代から引き継がれ
私には弟がいる。友達に言えないけれど。会えないけれど。
行き場所と居場所がなくて公園のベンチに座る団地の中の
意味のないごめんなさいを言う前のパンダの遊具に跨る儀式
いやらしい事考えるから小四で生理がくんのよ、と言われても
洗濯は母の分だけ別洗い柔軟剤も許せないってさ
ごわごわのバスタオルにてごしごしと体拭く母のエクスタシー
エッセルというのはミドルネームなの明治のスーパーカップが甘い
かにぱんの足をもぎもぎ休日を過ごす子達の胃に光あれ
のりたまを食べたら涙が込み上げた今まで支えてくれてありがと
顔のいい男はこわい死神のような気がしてごめんなさいする
自転車に乗れない 母が自転車は無理よ乗れないよと言ったから
いつの日か縮毛をかけ千円のお店以外で髪を切る夢
大人っていいなタバコも酒もあるわたしにあるものは月 月
アメリカンドッグを買って通学路以外の道を選んで帰れ
眼鏡すら買ってもらえず百均の度なし眼鏡をかけて登校
迷い込みべたつく床を這う蜘蛛におかえりなさいと言う どっちの
祈っても朝は訪れ夜は来るわたし団地で飼われるJK
はじめてのキス はじめての手とお口 ピンサロ上がりの母の血継いで
もっといいものだと思い気持ちいいものだと思っていたセックス
口癖が「女はみんな女優だよ」母の唯一正しい言葉
アメリカンドッグやフランクフルトなら良かったのにな噛みちぎれるし
あたしって良くないにおいするらしいしょんべんくさくて甘いんだって
知らないよ尻の割れ目のはじまりにばら星雲があることなんて
「ボーイフレンドいるのかい?」って殺された魚の目で聞く老いた人の雄
散歩するわんちゃん見ては涙ぐむわたしも母と歩きたかった
友達の家の屋上、夜、花火、優しい両親、綺麗、死にたい
友達の家で下着になり浴衣着せてもらえた死んだっていい
十五歳家訓破ってお祭りの露店で買ったりんごあめかたっ
窓の前たわむ電線に溜まった雨粒、落ちていいんだよもう
もし母が死んだら花壇のカラー突き刺して弔う容れ物として