不自由な自由 (2019年歌壇賞応募作)
水色のペンで『自由』と書いてみてわざとらしさに塗り潰す 空
妊娠中出目金の夢ばかり見た母はわたしと目を合わせない
言ったよねメロンパン屋はやめなよと今日でさよなら家と父親
尻尾がないうちのフレブル笑うならあなたの長さ見せてください
逆さまに吊られたカラス人間のゴミを漁るのどれほどの罪
かっこよく鎌を構えたカマキリをひき逃げしてく黒いベンツが
虹を吐く事は出来ない溶け合った複数の死の色はイエロー
アナスイのリボンで手首縛ってよきっとかわいく喘げるパープル
繰り返す嫌悪と憎悪根っこには養分としてのコンプレックス
稼ぐしかないね整形したいならあそこやあそこ貸したりしてさ
三日目のおでんは捨てるわたしんち一週間分作るきみんち
ケーキ屋の夜逃げを願う夜が来る誰も祝わぬぼくの誕生
うちのカレーほんとまずくて夕飯の後に死んだら後悔しそう
手作りのキャンドル教室「タイトルをつけてください」「はい、【URAMI】です」
定型にこだわりこれは個性だと走り続ける借り物競争
スニーカー真っ黒だよと笑われた靴って洗うものだったんだ
少年に因縁をつけるおっさんはコンビニ前の巻き舌チャンプ
白線の向こうぬらりとひかる唾その真上から唾を垂らした
なめくじといくじなしとが対峙するきみも誰とも結ばれないで
早朝にデートではなく密会を鈴は鳴らさず神様を背に
青年の鼻梁に神の影を見て耳の穴から嗅ぐあらみたま
うつくしい性欲がもしあるならば濡れたまなこに映るあたしだ
性的に満たされてたら他人にも優しくできるはずの優しさ
ぶたれても蹴られてもいい倒れてもキスをしにいく長くないから
自殺する人を見ました燃えていてほのおは青で目が合いました
ツユクサを踏み潰したくなっちゃってそんな色してこっち見ないで
ためらわずきみが叩いた蚊は妊婦検査スティック背中に隠す
笑いつつ彫師は入れる永遠に二の腕を刺す等身大の蚊
組み敷かれ杭を打たれている時のもがく手足が舞のようだと
不自由の中の自由はなまめいて縛りがあってこそ水甘く