玄人からの評価か、素人からの評価か。
創作物には玄人からの評価と素人からの評価があります。クリエイターは往々にして、玄人からの評価を欲しがります。私も断固として玄人からの評価が欲しい人間でした。
それは自分の実力が本物なのかどうかを知りたいからです。
玄人というのはその道の専門家です。自分が憧れている世界の先輩方であり仲間でもあります。その道で確固たる地位を築いた人たちの評価を得ることで、自分がやっていることの正しさを確認し、自分が獲得してきた技術に自信を持たいたいのです。
特に私がこだわったのは、「知らない玄人」に評価されたいという視点です。自分の近くにいる専門家の意見が信用できないからです。信用できないというのは、気を遣って本当のことを言ってくれない気がしているからです。
だから、とにかくコンクールみたいなものにたくさん出してきました。「どこの馬の骨かわからないヤツが作った作品」として人の目に触れさせることが大事なんです。
私は本当に筋金入りで近しい人の意見を信じないので、子供の頃からいろいろなコンクールに出してきました。もう一度言いますが、近しい人たちが良い人ばかりで真実を言ってくれないと思ってるからなんですよ。近しい人たちの評価軸が間違っているとかそういうことではありません。
大学生の頃は、朝日広告賞や毎日広告デザイン賞に必死になって応募してました。朝日広告賞では小型広告賞という賞をもらったり、毎日広告デザイン賞では、優秀賞、奨励賞、学生賞をもらいました。
そうやって、自分が考えている広告が間違ってないことを確認してたんです。今となっては偉そうに「作家ヅラ」してたりしますが、私は根本的には広告が大好きな若者だったんです。電通か博報堂に入ってアートディレクターになりたかったんですけどね。
いま思えば、電通にも博報堂にも入れなくて良かったなと思ってます。そもそもグラフィックデザイナーが持っている繊細さを持ち合わせていない可能性がありまして、あと会社員としてやっていく資質が欠けているからです。私は農耕ではなく狩猟が向いてるタイプなんでしょう。野生が大好きと言いますか。
朝日広告賞も毎日広告デザイン賞も、その当時の広告業界の第一線級の本当のプロの人たちが審査員でした。だから、私はその人たちに自分が作った広告を見て欲しかったんです。
いまでも覚えてるんですが、朝日広告賞の紙に印刷された応募要項に審査員からのコメントが載っていたんです。そこに糸井重里さんのコメントとして「驚きをくれ。」とひと言書いてあったんです。
この言葉は、私のその後の人生において、広告を作る時も作品を作る時もとても意識する言葉になりました。人に見せる前提の創作物すべてに当てはまる言葉が「驚きをくれ。」だと思うからです。
そして、企画をする時も演出をする時も、「ここに驚きはあるか?」という視点でチェックしていくんです。ものすごくシンプルなチェック項目ですが、核心をついたチェックをすることが出来ます。
ハッキリ言ってしまえば、驚きがない広告や驚きがない作品が人々の興味を惹くことはないので、驚きがなかったら作ってもお金の無駄です。その広告で商品の売上を伸ばすことも出来なければ、その作品が大きな賞を取ることもないでしょう。世の中は、驚きがある表現の中での争いなんです。
広告だってまさにそうで、私がずっとやってきた映画祭もまさにそうです。たぶん、世の中に出ている広告で驚きがあるのは、5%ぐらいしかないんじゃないでしょうか。映画祭に応募された映画も10%ぐらいしかないと思います。実は表現において驚きさえクリアしてしまえば、準々決勝ぐらいまで行けてしまうんです。
ちょっと脱線したので話を戻します。そうやって私はずっと玄人の評価を追い求めて、自分のクリエイターとしての自我を形成してきました。
いやしかし!
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