HIPHOP Metro Networks Vol.8: 墓掘り人Gravediggazが放つ、ホラーコアのスーパークラシック
前回紹介したHIPHOPニュースクールのスーパースターDe La Soul。彼らの初期作品の多くをプロデュースしたのが、Prince Paul(プリンスポール)です。そんな彼が、なんとあのWu-Tang Clan(ウータンクラン)の総帥RZA(レザ)と共に結成し多くの楽曲を手がけたのが墓掘り人ことGravediggaz(グレイヴディガーズ)なのです。楽曲は超ハードコアドロドロ怪しさ120%。その作風からホラーコアというサブジャンルにカテゴライズされます。
本当にDe La Soulをプロデュースした人と同じなのか??と疑いたくなっちゃいますが、Prince Paulのアルバム「Psychoanalysis」「A Prince Among Thieves」等を聴いていると、彼は実験的な音楽が好きなんだなということが分かります。De La SoulにしてもGravediggazにしてもそれまでに無かった音の革命を起こしたという点でPrince Paulがどれほど鬼才だったのかが分かります。
Gravediggazの四人のメンバーはいつも活動しているアーティスト名とは違う変名を使っており、Gravediggazの世界観に更なる深みを与えています。
Prince Paul -> Undertaker(葬儀屋)
RZA -> RZArector(司祭: 復活させる者)
Fruitkwan -> Gatekeeper(門番)
Too Poetic -> Grym Reaper(死神)
今回はGravediggazの中でも怪しすぎるビートと圧巻のマイクリレーで人気のクラシック、Nowhere to Run, Nowhere to Hideをピックアップ。
冒頭のRZArectorの入り、2バース目のGrym Reaperの奇人っぷり、楽曲後半に突如差し込まれるProtect ya neck / Wu-Tang clanのイントロ等楽しみどころ満載です!!
リリック/パンチライン
はじめに曲名の「Nowhere to Run, Nowhere to Hide」ですが、逃げるところはない、隠れるところはないということで「逃げも隠れもできない」といった意味でしょうか。MVでも半裸の男性がひたすらGravediggazの面々から逃げる様が描かれています。それではバースを見ていきたいと思います!
まずは冒頭のRZArectorのキック。入りがめちゃくちゃカッコいい!
Let's get it on, Akh, and watch the spot get blown
I be the sick lunatic with the devilish poem
From the mists of the darkness, I come with this
Hittin' straight to the chest like I'm Primatene mist
あげてこうぜ、そこが吹っ飛ぶのをみようぜ
俺は悪魔の詩を持つ病んだ狂人だ
闇の中からこいつを持ってきた
Primatene Mistのようにまっすぐ胸を刺す
初っ端からクレイジーなリリックで襲いかかってきます。ちなみにPrimatene Mistというのは喘息の呼吸器のようです。
https://www.primatene.com/
2バース目のGrym Reaper!
Ahh... fuck it! Another day, another ducat
From here to Nantucket, MC's kick the bucket
I'm rugged and rough, blowin' up till I bust
While other rappers is flatter than a white girl's butt
クソっ!今日も相変わらずだぜ
ここ(ニューヨーク)からナンタケット(というマサチューセッツ州にある島)までMCたちがバケツを蹴っ飛ばす
俺は無骨で乱暴だ。ぶっ壊すまで攻撃するぜ
他のラッパーは女のケツより平べったい
このバースはリリックがどうというより、フロウがクレイジー過ぎてヤバいです。ちなみにducatとは戦前のヨーロッパの通貨だったそうでアメリカのことわざである「Another day, another dollar(今日も相変わらずだぜ)」をもじったものと思われます。
そしてRZArector、Grym Reaperに比べ比較的落ち着いているように見えるGatekeeperですがリリックはかなり猟奇的です。
Yo, as a child, a bad seed, was on the prowl
Runnin' mad wild, 'cause death was my style
The crazy, maniac, yo, lunatic
I circle like a shark when the fresh blood drips
Needles to the pin, now you're in
Yo、子供のように、悪い種子が徘徊
荒れ狂う、なぜなら死が俺のスタイルだからだ
クレイジーで凶暴な狂人さ
鮮血が滴り落ちるとサメのように回り始める
針を刺す。さあ、おまえの番だ
Gatekeeperのバースは続きますが、残虐的な表現もあり翻訳をためらってしまいましたw
そして、Protect ya neckのイントロが流れたあとのRZArectorのバースに興味深い一節があります。
Death is the final step, when y'all step
To intercept, the rep of a brother who has kept his status,
stop the madness, that is
死は最後のステップだ。お前らが一歩踏み出すとき。
(死を)封じるために。
ステータスを持ち続けてきた兄弟たちのリスペクトが狂気を止める。
色々乱暴なことを言いながらも最終的には死を否定しているように感じられます。またGravediggazの「Twelve Jewelz」という曲では以下のようなバースがあります。
That's why they call me the Rzarector
I'm out to resurrect the mental dead, by diggin up they graves
なぜ俺がRzarectorと呼ばれるか
俺は魂が死んだ者たちを墓から掘り起こし救済する
ここからも分かるように、RZArectorは単に奇怪に暴力的にふるまうだけではなく、救済者としての思想を持っていることが伺えます。
サンプリング元
まず特徴的なイントロはファンクバンドであるSouthside MovementのFunk Talk!これはハンパないですね、超絶ファンキーでかっこよすぎます。
楽曲の主な部分はソウルシンガーEugene McDaniels(ユージン・マクダニエルス)のJagger the Dagger。調べてみるとこの曲はHIPHOPシーンにおいて幾度かネタにされてきており、A Tribe Called QuestやBeatnutsも使っているそうです。チェックせねば!
Header photo by Scott Rodgerson on Unsplash
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