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”農の最高傑作を創る!”第八話 カップ型パンをひらめく

【農業ビジネス分野を考える】

栽培した野菜にどうやって価値をつけることができるだろうか。
無い知識を振り絞っていくつか考えました。
●珍しい野菜を栽培する
●ただひたすら野菜販売力を身に付けていく
●新しい流通経路をつくる
●近未来的スマート農業での大規模農業
●農具、マシン、ユニフォームなどの販売
●加工品製造
大前提としてあったのは、第六話に書いた通りでして、「人世のために働く」ことであり「喜びを提供する」こと、最大目的は「熱狂を創る」ことです。
大きいことを言うようですが、農業を盛り上げたいという気持ちはとても強かったです。その気持ちは今も変わりません。
農業が盛り上がれば、農村が盛り上がります。その先には「熱狂」がある気がしていました。

では、農業を盛り上げるためには何が必要なんでしょうか。
僕には僕なりの仮説を持っていました。
それは、若者が農業をやることです。
若者には荒々しいパワーがあります。前進できる無知があります。雑音にとらわれにくくて、時に柔軟で斬新な発想もします。そして、デジタルは体に染み込んでいるように扱います。
たくさんの若者が農業の世界に入ってくれば、新しい農業の形ができあがっていくだろうと予測しています。

では、若者が農業の世界に入ってくるにはどうしたらいいのでしょうか。
僕の答えは”カッコいい農業”を創ることです。農業に興味を持ち始めた頃から持っている、ずっと変わらない仮説です。
道具もマシンもユニフォームもスタイリッシュで、他の産業と同じかそれ以上儲かっていて、お日様を浴びながら青空の下で希望に満ち満ちて働く。汗びっしょりで泥だらけなのに、プロ野球の選手みたいにカッコいいんです。
そんな農業に若者たちが集まり、常識を超えた発想とエネルギッシュな活動で新しい農業の形を創っていくんです。
僕はこんな絵を描きながら、理想に近づくために毎日頑張っています。

【分野の選択】

さて、お話を戻しまして、描いた絵にどうやって近づいていこうか、悶絶の選択を書いていきます。
野菜販売で稼ぎを作り出していくことは、とても難しいということを感じ始めていた頃です。
冒頭の手段を一つひとつ考えていくと、
●珍しい野菜を作ったとしたら、たぶん調理や味の説明が普通の野菜以上に必要になってしまって、通常の何倍もの販売スキルが求められる気がしました。それよりも何よりも、わからない野菜はお客さんが手に取ることすらしないのではないかとも思いました。

●野菜販売力を身に付けていくことは、百姓になったら当たり前のスキルです。
ただし、多くのお百姓さんが当たり前に持っている販売スキルは、経験に裏打ちされた分厚い知識の集結であって、昨日今日始めた駆け出しなんちゃって農家ではとうてい太刀打ちできないと思いました。思うよりも何よりも、絶対勝てっこありません。

●流通改革でもやったろかー!とも考えました。WEBを駆使して、新しいマーケットを造り上げるのです。でも、大まかな商品の流れは思い浮かべることはできても、細部に潜む問題点や課題点はまったくわかりません。すでにWEB上には野菜の仮想マーケットはいくつかあって、それぞれに特徴を出しながら競争していました。ちょいと分が悪いな・・・、と思いました。これまた「ちょいと」ではないですけど。

●カッコいい農業といえば、近未来を連想させるスマート農業を目指すか!?
コンピューター制御された大きなハウスで、人工的野菜製造工場を経営か!?
または、ドローンや自動運転の作業マシンを操りまくるIT農業か!?
確かにカッコ良くて若者ウケしそうだけど、大きなお金が必要な上に、飛行機操縦するくらいに経営は難しい気がしました。感覚的に、僕の目指す理想とは距離があるとも感じました。

●農具、マシン、ユニフォームの販売についてはどうか。なんだかとてもしっくりきました。
カッコいい農業を創っていくためには、見た目はとても大事です。
僕が道具について考える大前提は、一に便利で使いやすいこと、その次にカッコいいことです。便利で使いやすいことは、言うまでもなくカッコいいよりも優先します。
となると、便利かどうか使いやすいかどうかは、まず作業の中で実際に自分で使ってみることが一番です。
これは借りた畑で作業を進めながら、鈍さ際立つ脳ミソと感性をフル回転させて、今でもアイディアは貯め込んでいるところです。
余談ですが、どなたかに発明してもらいたいアイテムが一つ。
野良仕事をしていると、スマートフォンには様々な連絡が入ります。都度、泥だらけ汗だらけの手袋を取って操作します。急を要さない、またはどうでもいい連絡や情報もたくさんあります。
視覚でも聴覚でも触覚でもいいので、簡単にお知らせしてくれるガジェットが欲しいです。

●最後に加工品。
野菜に付加価値をつけようと考えた時、一番シンプルに加工を考えました。
僕は調理はほぼしません。できないこともないですが、やりたいことの優先順位としてはいつも下位ですので、積極的に台所には立ちません。
営業職でしたので、飲食業の経験はゼロです。
商品を作るにしても発想するにしても、専門的な予備知識はほぼゼロです。
もし上記に挙げてきた項目よりも優位な点があるとすれば、毎日食べ物は食べていますし外食もしばしばしますので、こうあったら美味しいかもとか食べやすいかなというイメージはできるかなということくらいです。

ん~、もし考えられるとすれば農具・マシン・ユニフォームなどの販売か、または加工品製造か。

スタイリッシュな農具やマシンを操り、イケてるユニフォームをまとってフィールドで作業をしていたとしたら・・・、カッコいいじゃないですかー!
もし若者ウケするような加工品を考えついたとしたら、これもまたカッコいいじゃないですかー!
こん時思いました。自社プロダクトを持っている百姓って、とてもレアだなって。あんまり聞いたことないですよね。
加工品を考えた場合でいうと、使う野菜は農薬も肥料も使わないというこれまたレアな健康野菜になりますので、レア×レア=超レア。
いい・・・。なんかいい・・・。とってもいい・・・!スゲーいいーっ!!メチャメチャにカッコいいーッ!!!

ということで、加工品に狙いを絞りました。

【発想するための条件の抽出】

アイディアを絞り出すための条件を考えてみました。これまで貯め込んできた人生経験とにわか知識がベースです。
度々の箇条書き失礼します。
①流行りは何か・・・2014年、2015年当時、流行の最先端の原宿や渋谷では、綿菓子やクレープなどのワンハンドフードがブームでした。
②食品市場は・・・2016年、売上高ではパンが米を上回りました。
③パンといえば・・・いつぞやどこぞの居酒屋で出されたデザート。トーストされたあったかいパンにバニラアイスが乗っかっていてトロトロのチョコがかけられたもの。溶けたアイスがパンに染み込んでこれが目をひんむくほどに美味しかった!
④操作性・・・営業で走り回っていたときは、車中で昼食をむさぼりながら運転することがしばしば。
いつも感じていたこと。箸は使えませんのでワンハンドフードを選びます。おにぎりだったりサンドイッチだったり。
おにぎりを食べると、のりがボロボロと散らかります。サンドイッチだと、嚙みついた瞬間下から実があふれて(なんだか描写が汚くてすみません)、スーツなどを汚すことがよくあります。いつも困っていました。
⑤栽培した野菜が活躍できること・・・美味しさを伝えられること。ベテランのお百姓さんが作った野菜の価格よりも、より高く販売できること
⑥若者ウケすること・・・農業に目を向けてもらうためには、若者が注目する商品を作るのがベターです。
そう考えると、考えやすかった漬物やドレッシングは選択肢から外れました。
⑦最大の課題・・・僕にもできること。

【神の思し召し】

これら条件を頭ん中に回遊させながら、来る日も来る日も考え続けていました、営業マンとしての営業中に。

どのくらいの期間考え続けていたんですかねぇ。数日や数週間というレベルではなかったと思います。数ヵ月レベルで考え続けていたと思います。

そんなある日、いつものように営業マンとしてブラブラ歩きながら考え続けていると、突然、本当に突然、絵が出てきたんです。アイディアが降りてきたんです。
ギザギザの吹き出しに「どうだぁー!」って書いて出てきたんではなくて、ドラえもんが満を持して四次元ポケットから未来アイテムを出すあんな感じでもなくて、まるで食堂で席についてお冷を出されるような感じで出てきたんです。
目が点になってフリーズしました。慌てて路地裏へ駆け込みました。頭ん中に描いた絵なのに、誰かに見られたらマズいって本能的に走ったんです。
必要以上に息が荒くなっていました。

それは、”カップ型のパン”でした。

へ?マジか?血が上ってめまいがしていました。自分を落ち着けながら、グルグル回遊していた前述の条件を一つひとつ捕まえて、検証していきました。
①ワンハンドフードだよなぁ。んー、間違いない。
②パンだなぁ。そう。パンだ。
③もしかすると、アイスが入るなぁ。漏れるかなぁ。やってみないとわかんないけど、入るといえば入る
④操作性も良さそうだなぁ。下から漏れることはないかな。片手で歩きながらも食べられる。行儀悪いけど。
⑤僕の野菜を加工して入れたら、色んなパンに変身するなぁ。野菜炒めやカレーも入るかも。
⑥カッコよく仕上げたら若者ウケしそうだなぁ。

検証が終わっても、心の中ではずっと疑い続けていました。
(ちょっと待てよ。いや、ウソだ。こんなアイディアが僕に降ってくるはずはない。そんなに世の中甘くない)。
会社から支給されていたiPadで、インターネットの世界を探し回りました。
(無い・・・。そんな商品はない・・・。デンマークに似たような商品があったけど、ちょっと違う
ウソだろ・・・。もしかするととんでもないアイディアを思いついてしまったのか・・・!?)
とにかく信じられませんでした。とんでもなく興奮していました。
もしこのアイディアが現実の商品となったとしたら・・・、
「農薬も肥料も使わないレア野菜」×「自社プロダクトを持つレア百姓」×「世界にただ一つ唯一無二の超レア商品」=”超超超レア百姓”!?!?

でも、⑦最大の課題、僕にでもできるものなのか。肝心かなめの大問題です。

仙台一番町四丁目、陽射しも穏やかなランチ前の出来事でした。

第九話へ続く

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