🐣【自閉スペクトラム症（ASD）を医師が解説:前半】

前置き

私は、児童精神科医になるため大学病院で研修医をしています。医師としてやりたいことは、臨床現場で得た知識や勉強した情報を発信することです。対象は医療関係者だけでなく、それ以外の方にもわかりやすく説明したいと思います。きっと皆さんのお役に立つ情報をお届けできると思うので、どうぞよろしくお願いします。記事に対してコメントをいただけると私も勉強になるので、感想でも知識でもいろんなコメントをお待ちしております。それでは本題へどうぞ。

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自閉スペクトラム症、自閉スペクトラム障害
ASD（Autism Spectrum Disorder）

神経発達症の中で今最も割合が高いのがASDです。ASDの疫学、診断基準、タイプについて解説します。別の投稿で検査、治療などについても解説します。

ASDの疫学

✔️約36人に1人
✔️男児：女児＝4：1
✔️あらゆる人種、民族、社会経済グループで発生する

Data and Statistics on Autism Spectrum Disorder｜Autism Spectrum Disorder
CDC

ASDの診断基準

DSM-5の診断基準を示します。ICD-11ではDSM-5の診断基準と同じです。

A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる。
（以下の例は一例であり、網羅したものではない）

（1）相互の対人的-情緒的関係の欠落
例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ。
（2）対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥
例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
（3）人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥
例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ。

B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって以下の少なくとも2つにより明らかになる。

（1）常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話
（例：おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し)。
（2）同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または、言語的、非言語的な儀式的行動様式
（例：小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求）
（3）強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味
（例：一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味）
（4）感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味
（例：痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)

C.症状は発達早期に存在していなければならない。
(しかし、社会的要求が能力の限界を超えるまでは症状は完全に明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある)

D.その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている。

E.これらの障害は、知的能力障害（知的発達症）または全般的発達遅延ではうまく説明されない。知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない。

⚠️DSM-Ⅳで自閉性障害、アスペルガー障害、または特定不能の広汎性発達障害の診断が十分に確定しているものには、自閉スペクトラム症の診断が下される。
社会的コミュニケーションの著しい欠陥を認めるが、それ以外は自閉スペクトラム症の診断基準を満たさないものは、社会的（語用論的）コミュニケーション症として評価されるべきである。

DSM-5 自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害 より

簡単にまとめると、幼い頃から、対人スキルが低い＋いつも通りや同じを求める・感覚過敏と鈍麻です。ここまで知るとなんとなくASDがなんなのかが分かりますね。

ASDのタイプ

ASDは診断基準には載ってないタイプがあります。

①積極奇異型
ちょっと怖いイメージを持たれそうな名前ですが、まずは型の名前を解説します。
「積極」は、他人に対して積極的に話しかけたり、関わろうとすることです。「奇異」は、一般的な関わり方とは逸脱していたり、独特な関わり方をするという意味です。早速世間が思い描いてるASDの「自分の世界に閉じこもっている」とは対照的なタイプですね。このタイプは非常に行動力があり、他人と関係を築こうとしますが、築き方を間違えてトラブルが起き、結局関係が築けないことがあります。
このタイプの会話をキャッチボールで例えると、1つの小さなボールを適切な速度で投げ合うのが正常なキャッチボールとすると、球速が速すぎたり、相手が取れないほどの大量の球を投げたり、バスケットボールやサッカーボールを投げたりする感じです。

②受動型
こちらは、自分からは積極的に他人に関わろうとせず、他人からの働きかけに素直に応じます。このタイプはおとなしく、トラブルも少ないです。しかし、自分の意見が言えず、他人に利用されたり、嫌なことも受け入れてしまうため、パニックを引き起こすこともあります。
このタイプの会話をキャッチボールで例えると、自分からは球を投げ始めようとせず、相手が投げてきたら投げ返すため、一見正常なキャッチボールになりますが、相手がトゲのついたボールを投げてきても頑張ってキャッチして投げ返そうとするため、相手次第では自分が傷つき、パニックになります。

③孤立型
このタイプはみなさんが想像しているASDの姿だと思います。他人と関わりを持たず、1人を好み、視線を合わせません。周囲との関わりがないため、服装のセンスも幅が狭く独特であることもあります。
このタイプの会話をキャッチボールで例えると、ボールを自分の左右の手の間を行ったり来たりして遊んでるような状態です。これでは、いざキャッチボールをするとなったら、キャッチボールの常識を知らないため、ボールではなくジャガイモを投げたりしてしまうかもしれません。

④尊大型
これは、積極奇異型に似ていて、他人に積極的に働きかけますが、自分のこだわりを他人に押し付け、見下すことがあります。これは、純粋なASDに自己愛性パーソナリティ症が合併したような状態で、高圧的な振る舞いによる間違った成功体験を学習し、それに依存している状態です。

⑤大仰型
この型は、社会と適応を図ろうとして、意図的に丁寧な振る舞いをしますが、不自然さが残るタイプです。対人距離がわからないために、とりあえず誰にでも目上の人への態度になります。定型発達との社交性の穴を埋めようと本人は頑張りますが、過剰適応であるため、その頑張りが段々しんどくなり、二次障害としての精神疾患を発症することもあります。

前半は疫学、診断基準、タイプを解説しました。後半では検査、治療などについて解説させていただきます。お楽しみに💐

Dr.Egg🥚