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あるホームレスの話

刑務所の怪談を書いていて思い出したことがある。
複数の元受刑者や拘置所経験者に20年以上前に話を聴いた。

極寒の某拘置所に収監されていた経験のあるA氏が語っていた話である。

拘置所は未決囚の「被告」が収監されているが、実に様々な世代の年齢層だったり、職業であったり罪状であったりと、ひょっとすると普通に生活していると出会うことも会話することもなく違う人生を送るような人に出会うのだとか。

10代の頃から鑑別所、少年院、少年刑務所を経験している「超エリート」も居れば、50過ぎて初犯で拘置所へ来てメソメソしてるおっさんも居れば、ヤクザで刺青が入った人もいたりする。

物心ついてから塀の中で生活している人にとって刑務所は別世界ではなく、当たり前の世界だし、外に出たいが出ても職業も限られ自由なようで決して自由ではなく、結局刑務所へ戻ってしまう人も少なくないのだとか。

そういう人は意外と犯罪歴は多くても昨今の「タタキ」と呼ばれる強盗の極悪で捕まれば「死刑か無期懲役」になるような重犯罪はやっていなかったりする。
そういう意味では「闇バイト」の若者がやっている「タタキ」は捕まれば人生が終わってしまう犯罪なので犯罪ばかりしている小悪党より悪質な素人とも言える。

無期懲役になると30年は仮釈放は貰えず、30年収監され仮釈放申請を出しても許可されず、次の申請まで10年かかるとか・・・20歳で逮捕されて無期になったら50歳まで申請できず、申請して許可されなかったら60歳、それだって許可されないそうだから・・・・。
70過ぎて出所して何がやれるのか?20歳でそうなら30代40代でそんなことをしたら獄死しかないよな・・・。

そんな所へ好き好んで入る奴はいないと思うでしょう?

それが・・・私が聴いた話ではそうでも無い人がいるというのです。

拘置所に入っていたというA氏が言うには、「北海道の冬なんて外でなんか生きて行けない、そんなの当たり前だがホームレスだと死活問題だろう?だからわざと事件を起こして冬の間は留置場から拘置所、そこから刑務所へって奴がいるんだよ。もちろん犯罪者には違いないが生きるために刑務所へ好きで行くんだから・・・」という。

ホームレスって自由な生活をしているようで都会の片隅でなんとかサバイバル生活をして生きているイメージだが・・・、名誉とかプライドとかそんなこと言っていたら生きて行けない現実があったりする。

A氏が見たホームレスは、寒くなると事件を起こして警察に逮捕される、もちろん微罪だと帰されるのでそこそこ大きなことをする。
駅で窓を割ったりとか直ぐに警察が来て捕まるようなこととからしい。
人を襲ったりはしないそうで器物破損とからしい。

捕まると留置場へ入れるが臭いのでシャワーへ入れたり、三度三度毎日食事が出て、暖かい暖房の入ったところで布団に入って眠れる・・・そんな天国が留置場であったり拘置所・刑務所だったりするのである。

ホームレスにとって犯罪をして反省するとか全く関係ない話で生きるための手段だったりするのである。

そういうホームレスばかりじゃないのだろうが、A氏言うには「一番自由な生き方をしている奴が一番不自由で塀の中で規則に縛られて誰もが嫌がる地獄の刑務所が天国だって言うのがおかしくてさ・・・・よく生い立ちを聴くと信じられないくらいの高学歴と有名企業に居た人らしくてさ、はじめは冗談かとも思ったけれど会話しててもなんとなく知性は高そうだし・・・他の未決囚とは別次元の人だったね・・・風呂に入って幸せそうな顔しているのが印象的だったな・・・」と語ってくれたのが強い印象に残っている。

刑務所が天国だなんて日本はそんな社会なのか・・・・自由に生きても一番不自由な世界が安住の地とは・・・・。

深い話だなと思った。



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戦車兵
チップありがとうございます!!無理なさらず御覧頂けたら幸いです。