「カラス婆」
以前住んでいたアパートの1階に近所の人達が「カラス婆」と呼ぶ老婆が居た。
私はそのアパートの2階に住んでいたが・・・・。
老婆は道端にパンくずとかを撒きカラスを餌付けしていた。
大量のカラスが道を覆い、その糞で道路が真っ白になっていた程だった。
近所の自動車は糞まみれ、洗濯ものも外には干せないくらいで近所迷惑であった。
当時地上デジタル以前であったので屋根にあるテレビのアンテナにカラスが止まりテレビが映らないと近所の人達も迷惑がっていた。
子供たちが通学路としている所にも餌を撒き、カラスが群れを成していた小学生が通れなかったため、石をカラスに投げたことがあった。
カラスに小学生が襲われ大騒ぎとなり、カラス婆への批判は強まった。
道路がカラスの糞で白くなっていると近所から言われると夜に道路を洗剤で洗っていたりしていた。
そんなので道路の糞は取れるはずもなく、白い糞をただ引き延ばすだけでかえって真っ白にするのだった。
そんな近所迷惑なカラス婆は近所の苦情への腹いせか早朝に米を撒いた。
するとスズメが大量に舞い降りて米を食べた。
毎朝それをやるうちに、早朝になると大量のスズメが鳴きとてもなじゃないが眠っていられなくなった。
スズメが群れで鳴くととんでもない騒音なのだ。
近所の人達もかなりカラス婆に抗議したが、「そんなことはしていない」としらを切った。
早朝、私がアパートから出ると米を撒くカラス婆が居た。
当時私の白い車がカラスの白い糞とスズメの黒い糞だらけになっていたので「やめろ!」と注意した。
「あらあらこんなところに米を誰が撒いたんだろう」ととぼけるカラス婆。
そのカラス婆は猫を狭い部屋に10匹程多頭飼いしていた。
そのためか異臭がしていて、カラス婆が通った後はその臭いがするので姿は見えずとも「この先にいるな」と判る程だった。
消臭剤の臭いが混じっていて独特な臭いだった。
ゴミも大量で猫の糞とか何かとても臭いゴミをゴミ袋ごと部屋の前に置くため、アパート中そのゴミの臭いに包まれ、玄関から出ると吐き気がして窓も開けられなくなっていた。
カラスがよくそのゴミ袋を破り開けたりするので地獄だった。
そんな婆さんだったので、近所から忌み嫌われていた。
近所のいろんな人に注意されたり文句を言われていた。
町内会でも何度も注意していたが、「私はカラスに餌なんてやってない、スズメに米なんてやってない」と言い張った。
ある日、カラス婆が外で近所の方と言い争いをしていた。
どうやら逃げ出した子猫を近所の人が見つけて、どこかに捨てて来たらしい。
猫好きの私それはいくらカラス婆でもかわいそうだと思ったが、口出すのは止めた。
きっと近所の人も我慢の限界だったのだろう。
その日からカラス婆がカラスやスズメに餌をやる姿を見なくなった。
スズメの鳴く声は止んで良かったが、カラスはそうはいかない、「餌をくれ」と大声でアパート前で鳴くようになった。
このカラス婆は他の住人を常に監視するように他の住人の生活を覗き見たり、やたらと噂を撒き散らすのでアパートの住人はそれが嫌で逃げだす者もいた。
私は一時ドアを開けると必ずカラス婆もドアを開けるし、親しくも無いのにやたらと声をかけて来て根掘り葉掘り聞いて来て北朝鮮のスパイか?と本気で疑っていたこともあった。
理由は私は当時自衛官で営外にアパートを借りていたのだが、カラス婆に自衛官と名乗ったこともなく、制服姿で通勤していた訳でもないのに私の職業をなぜか知っていたからだ。
私は管理会社に何度も苦情を入れていたが他の住人も同じで苦情が多かったこともあり、アパートを取り壊すので立ち退きをということになった。
私は引っ越ししたためカラス婆と会うことも無くなった。
ただたまに道を歩くとカラス婆の臭いがして辺りを見回すと歩いている姿を見ることはあった。
私はそれからも引っ越ししたこともあってカラス婆を見なくなって数年になる。