自衛隊怪談「薬莢を探す者」
今から30年以上前の北海道の某駐屯地。
深夜、当直幹部に上番していたA1曹は巡察に駐屯地内を周った。
隊舎や駐屯地の外柵沿いを歩いて巡察する。
警衛隊に誰何されたり、警衛隊の歩哨に守則等を質問したり結構忙しい。
すると夜間なのに人影が見える。
「さっき警衛隊の動哨に誰何されたばかりなのにな」と思いつつ一人人影の方向へ向かった。
夜間作業なら灯りも点いているだろうに・・・。
遠目にもライナー(中帽、OD色のヘルメットのこと)らしきものを被っている。
弾薬庫付近ではあるが弾薬庫そのものには歩哨もいるし、こんなところに夜間いるのは自衛官でも不審者に違いないが・・・。
その不審なライナーを被った者は下を向いて何かを探しているようだった。
彼にA1曹は「何してる!」と声をかけた。
すると彼は顔を上げて言った「薬莢を探してます」と。
A1曹はその顔を見て「わーーーっ!!」声を上げた。
1年前に亡くなったD2曹だったからだ。
D2曹は悲し気に「薬莢が1つ足りないんですよ、一緒に探して下さいA1曹」と言った。
A1曹は「や、薬莢はな見つかったんだ、大丈夫だ、迷わず成仏してくれ」と手を合わせた。
D2曹は「それは良かった」とA1曹に挙手の敬礼をして消えた。
A1曹も答礼したが、そこにはD2曹は既にいなかった。
焼き焦げた臭いがした・・・。
D2曹が亡くなった理由は察して下さい。
自衛隊では実弾はもとより、撃った後の「撃ち殻薬莢」は確実に員数があるか数え、紛失した場合はどんなに日数がかかろうとも訓練日程が潰れようとも見つかるまで捜索し、現場から部隊が駐屯地に帰ることもできない。
そのため弾を受領した場合何度も弾数を数えて確実に何発あったか確認し、紛失した場合は確実に弾の数が合うまで見つかるまで例えどんな場所でも雪の中でも捜索するのである。
当然、発見できない時は責任者の責任は重く、捜索する部隊は何日も射場で野営しなければならないのだ。
始末書で済むような話ではなく、重大な事件として重く重く自衛隊員には辛い日々となる。
悪さして実弾を隠し持つなんてことも出来ない。
撃った記念品に薬莢を・・なんて話はあり得ないのだ。
弾が紛失したら責任者の重圧は計り知れないものがあり、時として・・・。
実際にそういう事件が起きている。