自衛隊怪談「見える人」
随分昔の話である。
自衛隊に居た頃、後輩の隊員にSという沖縄出身の1士が居た。
無口だが酒を呑むと陽気になる男であった。
印象はそれまで特にはなかった。
特段に優秀でもなく、特段にダメな奴という訳でもなく、自衛官ならはまるパチンコ通いをする訳でもないが、酒飲み以外は煙草もやらない目立たない感じであった。
そんなSを私の記憶に刻む事件が起きた・・・事件かな?まぁいいや。
夏季休暇で多くの隊員が帰省し、残留人員として隊員が営内に数名残っていた。
いつもなら狭い居室に16名もの隊員が押し込められているのだが、この期間は古参士長も休暇で居ないし自由な空間となっていた。
休暇は前段組と後段組があってSは後段組であったのだが、日曜日の昼間Sしかいない居室で誰かと話をしている。
「ひとり言か?」と思ってSを見ていたら・・・・誰かいる・・・いや気配はするが・・・いや・・いるよ・・・いる。
薄ぼんやりとSと話をしている者が見えて来た。
「え!?幽霊・・・いやいやこんな真昼間の営内で?いやいやあり得ない」と無理やり今ある現実を全否定して部屋を出た。
すると、Sが居室から出て私を追いかけてきた。
「今、見たでしょう、彼が見られていると言ってました、見えたんですよね?」と言った。
私は彼の先輩で階級も上、幽霊にビビったとか後輩に弱いところは見せられない、威厳を正し「ん!?何の話だ、お前ひとり言を大きな声で言ってたから休みだしちょっとそっとしてやろうと思っただけだ」と言った。
そして「彼が言ってたってどういう意味だ、お前しかおらんかったろう」と聞き返した、内心「怖いこと言うなよ」とビクビクものであったのは秘密だ。
「彼は過去にあの部屋で亡くなった隊員です」だけ言った。
先輩の私はビビッた姿を後輩のSに見せまいと「おう、そうか、各居室に幽霊は居るからな、あの部屋で昔亡くなったOというのが居た話は知っている」と平気だよって顔をして答えた。
「さすがですね、そうですそのO1士です」とSは言った。
「お前・・・見える人なの?、Oのこと誰から聴いた?」と言うと「彼が名乗ってました」と答える。
や、やばい奴だ・・・幽霊が見えて会話までしちゃうなんて・・・。
「ならOを成仏させてやれよ」と言うと「無理です、怨念が強くて・・・それに私は見えるのと聴くことは出来ても成仏とか除霊とか払うことはは出来ないんですよ」と答えた。
「あああぁぁそうなのね、それじゃしょうがないね、何の話をしていたの?」と平気を装い聴く私。
「いろいろです、ただ会話しているところを見られたのと見える人が何人か中隊にいると言っていました」と・・・・。
「S、この隊舎にはたくさん霊がいるらしいけれど他にも見えてるの?」と聴いて見た。
「はい、私の家系がそうなので」と「家系?」と聞き返したが「いえなんでもありません、親も見える人だったということですよ」と答えた。
それ以来Sを見る目が変わって来た。
それはSが任満退職するまでいろんな怪異を垣間見ることとなった。
それはまた別の話。