自衛隊怪談「誰何(すいか)」
見える人S1士が士長となり1任期が終わる頃だったと記憶している。
警衛勤務で夜間の動哨で一緒になった。
駐屯地の裏門から表門の警衛所まで夜間動哨する。
「Sよ、もう士長なんだから守則は頭に入っているな?特別守則くらいはペラペラ答えられないとダメだぞ」と指導した。
Sはあまり勉強は得意じゃなく、規則や守則類が覚えられず巡察に会っても質問に答えられないため「誰何(すいか)」をせずやり過ごすようなことをすると警衛司令からも注意され、私が指導を兼ねて動哨するように命じられていたのである。
「士長ともなれば後輩の指導も出来ないといけない。知らないじゃ後輩にバカにされるし追い越されてしまうからな頑張らないといかんぞ」と叱咤激励するのだが・・・・気の無い返事をしたので「おい!!これも仕事だ、仕事をするのにルールも決まりも常識も知らないで何を根拠に仕事できるんだ?階級が上がればそれだけ覚えて後輩に指導するのも仕事なんだ」と叱った。
動哨中に「歩哨の一般守則言ってみろ」「裏門歩哨の特別守則を言ってみろ」「警衛司令の要望事項言ってみろ」と厳しく質問し答えられないと・・・・・・・ピーーー――、ピーーー――(昭和の頃の不適切な内容なので自主規制します)をするのだった。
なかなか守則を覚えられないS士長にイライラしながら、それでも警戒を怠らず裏門付近の動哨経路を動哨していたら人影らしき者を発見した。
「S隠れろと」小声で指示し木の陰へ隠れた。
双眼鏡で人影付近を見る。
人影は確かにあるのだが、巡察には見えない腕章らしきものが見えないからだ。
Sに近づいて誰何するように命じた。
しかしSは「誰何するんですか?あれ人じゃありませんよ、人間じゃない」と言った。
「またかよ・・・こんな寂しい暗いところで幽霊って怖すぎるだろう、幽霊でもなんでもいいから不審者だ、誰何して合言葉言えんかったら捕まえろ!命令だ!」とSと共に人影へ近づく。
しかし、人影へ向かうも一向に近づかない、人影は走っても歩いてもいるようには見えないのだが・・・。
「あれ本当に幽霊かも・・・・Sと居ると俺まで見えるのは厄介だな・・・」と内心困惑していた。
Sは突然駆けだした。
Sが突然大声で「止まれ!誰か!」と人影に誰何した。
「おいおい、Sよ身を隠して誰何しろよ、捕捉しやすいところで誰何をするんだ」と言ったものの、普段から誰何をせずやり過ごして来たSにはそういうノウハウは士長にもなって皆無だった。
私とSの距離は15m程離されていたので、詳細は判らないが人影と会話しているようだった。
双眼鏡で人影を見るがなんにも見えない。
漆黒の暗闇だ。
Sと人影も10mは離れていたように思う。
何か黒い気配だけがする。
見えると言うかなんというか気配というか・・・。
Sは小声で何か語り掛けている、人影も何かよく聞き取れないというかラジオを小さくしたようなでも何を言っているか皆目判らないなそんな感じであった。
ゆっくりゆっくり近づくと人影の気配は消えた。
Sが「ふぅーー」とため息をついた。
「誰何しました」と私に報告するが「お前の誰何は0点だ、びっちり教育するからな」とSに指導する。
Sは「すみません」と謝った「幽霊だろうが侵入者や不審者は捕えろと言ったろう」と意地悪く言った。
するとSは「班長の横にいますよ」と・・・・ぞっとした。
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