天より~天へ ⑪

22/8/11
2:30
"トットットッ" 天の足音が冷蔵庫あたりで止まった。
"チリンチリンチリン" フードを食べるときの皿に当たる鈴の音。
"ピチャッピチャッ" 水を飲んでいる音も…。

今その場所には置いてないよ。
テーブルの上にご飯とお水あるからね。

天より
"僕のことをいつも思い出して。忘れないでほしい"
"毎日魚肉ソーセージなので『ささみ』食べたいです"

22/8/13
「私たちと別れて寂しいと、思ってくれるか? 天といつまでも一緒にいられると思っていたよ」

天より
"同じ心です"

息子のLINE
「天が "また来るからね" だってよ」

僕は砂の上に座ってお兄ちゃんに言った。"また来るからね"

22/8/14
天の砂が3粒床に落ちていた。これで何回目?

息子のLINE
「また来ると、ハッキリ言われたとき天は砂の上にいたよ」

22/8/16
お盆は雨が続いた。
「天、タオル持ってるか? 私たちは雨で濡れた天の体を拭いてやれないよ。自分で拭かないとね。晴れた日も雨の日も、いつも白いタオル持って歩くんだよ」

22/8/16
20:12
ごみ捨てから戻って洗い物をしていた。足元から聞こえた。「ふにゃ~お」
ドアの建て付けが悪く時々開くからその音かと思ったが、ドアには鍵がかかっていた。息子が言った。
「散歩したいか、一緒にごみ捨て行って締め出したか……」
「早く中に入るんだよ」と、ドアを開けた。  

22/8/22
5:20
"ピンポーン♪"
天が早朝パトロールから帰ってきた。
『霊』だけど自分の存在を主張している。いつもお疲れさま。

22/8/29
22:48
"トントン……" ドアをたたいた。
22:53
"にゃ~お" 「お帰り、天」

22/9/3
天とウメの墓参りに出かけた。
途中、歩道にふっくらと丸い雀が落ちていた。素通りしようと思ったが……。
踏まれたら気の毒と思い、拾って草むらの中に置いた。
朝から雨模様だったが直後の雨は涙雨? 家に帰って訳もわからず号泣した。
14:31
"ありがとう"
雨は雀の『嬉し涙』だった。
嗚咽混じりの声で言った。
「今度は大空を羽ばたく大きな鳥になるんだよ」

22/9/5
「てーん! どこだー、散歩行くぞー」

お兄ちゃんが僕を探している。
僕は白靄の中の世界から駆け出した!
お兄ちゃんに見える僕は、初めは米粒大。だんだんと大きく見える僕の姿に驚いている。
目の前に現れた僕を抱き上げて言った。

「ほーら天、つかまえた!
ずいぶん遠くから走ってきたんだな」

22/9/8
22:16
「10日の夕飯は要らない」と、お兄ちゃんが言ったから。
"届けてよ"
"僕からの差し入れ"

ほっこりする映像が届いた。
『布で包んだ二段重ねのお弁当』

2022年の十五夜は9月10日
22/9/9
今夜は十五夜の前夜祭。
お兄ちゃんが来る。お母さんがお月見のために植えた庭のすすきは穂が出ていない。「しょうがない」と、空き地で採ってきたみたい。

お兄ちゃんは時々夜空に不思議なものを見る。今夜は三角で脚のある光る物体。物凄いスピードで空から降りてきた。流れ星ではない。

"いつもは現地集合。今年は僕へのサプライズで皆揃って来るんだよ"

「ドライヤーが動かない」
お風呂上がりのお兄ちゃんが髪を乾かそうとした。

"しまった!"
お兄ちゃんより一足先に着いた皆がシャワー後、使いすぎて壊してしまったか。
"珍しかったんだってさ"

22/9/10
1:35
色んな音がしている。
「ガシャ!」 なかなか寝付けない私の目の前で何かが走り抜けた。
ウメ? 子どもたち? やっぱり天。
襖越しに寝ている息子が叫んだ。

「いてぇー!」 

2:03
視界に映像
壁に体半分隠している猫。
黒猫に変装している。お兄ちゃんのこと、踏んだの天と知ってるよ。

「隠れてもムダ」

22/9/11
4:47
"にゃ" 天が寂しそうに鳴いた。
「十五夜終わって皆帰るんだよ」
"また来年待ってるよ"

でも、来年は……。
(とんでもないことが起きる)

視界に映像
白服の男が黒服の男たちにボコボコに殴られている。その様子は動画になっている。白服は友人の金銭関係の仲裁に入っていた。
借りた側の黒服に説教したらしい。でも、言葉には気をつけなければいけない。指を振り正論を振りかざさないで。  

22/9/14
4:00
視界に映像
部屋中が雨漏りで床に畳にバケツを何個も置いている。その日の天気は晴れなのに床には綿埃のようなカビが生えている。 私の涙で……。

7:50
視界に映像
芝生の中の丸い小さな池に鴨の群れと錦鯉の群れ。すぐ先の切り立つ白い山を両手足で這って登る。
指についた白い物を舐めたらしょっぱい。山は塩山だった。
頂上から火口を見下ろした。

薄暗い時間帯で緑の樹木の間に小さな灯りと数本の細い白煙が上がっている。ここは天の平和な世界。

目を開けて「天、おはよう」と言った。
"おはよう" 小さく聴こえた。

立ち上る白煙は朝餉の支度だった。

22/9/16
息子が来月休暇を取り天と一緒に出かけるという。
『自分たちのルーツを探しに』

22/9/18
"にゃ~ にゃ~" 鳴き声と広い場所、建物の裏の映像。
行き先は北陸の街。

"お兄ちゃん、皆待ってるよ"

22/9/24
2:00
「バチッ!」 部屋の中に響く大きな音。"お彼岸終わりだから帰るよ"
そう言ったのはウメ?

7:25
私の布団の横で伸びているのは天?
いや、耳が長いからウメだ。
右手を伸ばして長い体を撫でた。
いつも来ていたんだね。長い間、気がつかなくてごめんよ。

22:53
天は毛布の上で丸くなって寝ていたから。
ウメ、いつでもおいでよ。私のいる場所がウメの『実家』だよ。

22/9/29
息子が社宅駐車場にいた野良猫の写真を送ってきた。

22:42
視界に映像
肩までの長さのカーリーヘアを横分けにしている。会ったこともない20代前半くらいの女性はどこか不貞腐れた表情だ。 "この世の中は不公平" ?
そんな感情が伝わってきた。
送られてきた写真の猫と同じ目。
猫は人間の顔を持って現れた。

「バチッ!」 音と共に消えた。

冬越しの暖かい場所とお腹を充たすご飯を見つけられますように。




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