天より~天へ ⑦
22/2/12
17:39
"……さん"
誰かに呼ばれたから「はーい」と返事をして玄関ドアを開けたが誰もいなかった。少し年配の穏やかそうな女性の声だった。聞き覚えのある声は天と同じ世界から聴こえてきたような気がした。昨年3月に亡くなった貴女ですか?もうすぐ1年になりますね。
ヒーター前に座り、惚けたように白壁の向こう側をぼんやり見ていた私を気遣ってくれたんでしょうか?
亡くなったあの日から今でも毎晩欠かさず貴女の世界での活躍を祈っています。いつかまた逢えるでしょう。
今度はどんなシチュエーションなのか楽しみにしていますね。
22/2/14
17:31
「胸が苦しくて息ができない。もう一週間続いている」
お母さん、大変!
お兄ちゃんが心臓苦しいんだって!
僕にはその理由がわかっているけれど、どうやって伝えればいいのか…。
22/2/15
「最近、何かストレス受けましたか?」
救急に行ったお兄ちゃんにお医者さんが訊いたそうです。
「お兄ちゃんは天のことが堪えたんだよ」 お母さんはそう言うけれど…。
"お母さん、それは違います"
15:58
おじいちゃんは病気で亡くなったけれど、息を引き取るときは心臓が苦しかったんだよ。でもそのことは誰も知らなくて…。大好きなお兄ちゃんには知って欲しかったらしいよ。
だからお兄ちゃんに伝えてよ。
言葉に出すようにと。
「じいちゃん、心臓苦しかったね。知らずにごめん。今度墓参りに行くよ」
その夜、お兄ちゃんの掛け布団がまるで突風に持ち上げられたようにブワッと浮き、部屋中光が舞ったそうです。
"大丈夫、お兄ちゃんは回復します。だんだんと落ち着いてきます"
16年間『猫に憑いていた人間』それがおじいちゃんです。
僕とおじいちゃんが同じ命日の理由です。一緒に大好きな二人を見守っていました。
僕はおじいちゃんが心配です。でも色んな方々がお願いをして取り計らってもらえるでしょう。
『また人間になれますように』
きっと大丈夫!
"僕? 僕は大丈夫。『天』だからね"
20:03
お兄ちゃんが言った。
「どうせこういうことになるなら全部わかるようになりたい。その方が気が楽だ」
お兄ちゃん、本当はわかっているはず。リアルな部分にまだ認めたくない気持ちがあって、背筋に一本覚悟が足りないのだと…。
22/2/18
20:48
「まだ息苦しいけど、背中に張り付いていた何かが布団が動く勢いで抜けていった」
お兄ちゃんは何でも気づくのが遅いんです。世話が焼ける。
お墓参りとか亡くなった人たちに話しかけたら解決することあると思いますよ。 "今度からね"
22/2/19
7:30
天、今夢を見て起きたよ。
家族で月夜の晩にぞろぞろ歩いてた。
「上弦の月、下弦の月。三日月は?」
私は誰かに訊いた。
「五輪が始まった日は三日月だったんじゃないか?」
そう答えた人は天の知っている人。
「それは天の亡くなった日だよ!」
叫んだ途端、パッと目が覚めた。
お母さん、本当に伝えたいことは夢の中に在るのかもしれません。僕はその人に知ってほしかったのです。
"僕がもういないことを…"
22/2/23
数日前、床にフードが一粒落ちていた。今日はテレビの前に一粒あった。
散らかしていったか、 それとも…?
存在を示したかったのだ。
"僕はここにいるよ"
22/2/24
職場の友人を誘って帰ってきた。今朝はテーブル上に何もないことを確認して家を出たのに。二人で笑ったよ。
私の椅子前にフードが一粒あったから。息子が言った。
「もう天以外ないでしょ!」
天は『見えない世界』のニャンコ軍団地球防衛隊総司令官にスカウトされた。副官は茶トラの『福』。
一緒に宇宙に赴任予定。
(笑)
お母さん、あの子は言ったんだ。
「宇宙から青い星を眺めたら林檎の樹が見えて懐かしい」と。
僕にも『林檎の樹』、見つけられるでしょうか? でもね、お母さん。
"僕には世界よりも地球よりも大事なことがあるのです"
22/2/28
0:05
夜更かしして電気を消した途端、テーブル上でゴソゴソ音がした。
天、何か探し物か? メガネ踏まないでよ。
22/3/5
20:40
ドアポストに厚い郵便物を無理やりと押し込めるような大きな音が部屋中に響いた。この時間に広報、チラシはこない。無視していたらまた同じ音が聞こえた。しつこいと思いつつドアを開けたが、何もないし勿論誰もいない。
胸の鼓動が激しい。
22/3/10
2:17
「にゃお!」
声を頂いたと、嬉しそうな天の鳴き声。耳元で聞こえたから驚いた!
いつもの声の大きさ忘れたの?
(笑)
天が逝ってからこんなにはっきり聞いたのは初めてだった。
「まだまだ寒いね。ほら入っておいで。一緒に寝よう」
天が私の膝裏に体を押し付け落ち着いた。背中のゾクゾクが止まらない。
ずっと遠くで鈴が鳴っている。その音を聴きながら目を閉じた。いつの間にか朝で天は消えていた。
"明日、また来るよ" と、約束して…。
22/3/11
2:33
遠くから聴こえる鈴の音で目を覚ました。「にゃお」
今度は少し優しい声。同じ時間。
「約束守れたね、天」
(22/4/21 11:30)
"急いで、お母さん!
日付にこだわっていられないかもしれない"
「今度は事故か事件か!
もうこれ以上急げないよ~💦」