つられた恋

思い出はいつも歌とともにある
そのときによく聞いていた歌や
流行ってあちこちで聞こえた歌
時間軸と音楽が連動していると
ふとしたときの音楽に記憶まで
引きずられることも多いけれど

私をずっと覚えていて* だとか
わたしのことなど忘れて** だとか
あのとき流行っていた別れの歌につられて
始まった瞬間からその終わりを想像したんだろう
終わりを迎えても終わっていない気がするんだろう

あなたとおサラバするより*** だとか
それが恋ってことだろ**** だとか
最近流行りの恋の歌をよく聞くせいで
これを恋みたいなものだと錯覚してるんだろう
温かなものがそこにあると勝手に思っているんだろう

「脳ってすごくバカなんだよね
だからそんなに脳を信用しなくていい」
きっといつか言われた言葉の通り
そのときそのときの歌につられている
本当は思っているようなことなど
これっぽっちもないかもしれないのに

だけど脳はすごくバカだから
歌につられただけの思い違いでも
恋だのなんだの言ってられる
温かい気持ちになるならそれでも

だって人の脳ってすごくバカだから
いつだって恋っていうのはそういう
盛大な勘違いや思い込みだったりで
嘘みたいな錯覚みたいな幻みたいな
ここにあるようで遠くにあるような
感情ひとつですべてが変わるような
とにかく恋ってのはつられてこそ恋

*「ハッピーエンド」 back number(2016)
**「Lemon」 米津玄師(2018)
***「死ぬのがいいわ」 藤井風(2020)
****「恋だろ」 wacci(2022)