正念場

「あなたにとって今が正念場だ」
あのとき母が言ったわ
きっと母にとっては
私が生きるか死ぬかくらいの
重大な問題だったのね

あのとき私は思ったわ
きっと私にとっては
私が生きるか死ぬかくらいの
重大な決断なんだって

母の思いと私の思いは見事にすれ違っていて
母は引き止めたくて
私は振り切りたくて
ただ正念場ということだけが共通点だったの
笑えるわ
母は残ってほしくて
私は去りたかったの

母は引き止められず
私は未練など感じず
母は残せず
私は去った
あのとき母の一部が終わって
あのとき私のすべてが始まった

間違いなく正念場だったのよ
だけどすべてもう終わった話
振り返る価値すらないような
あれが正念場とか嘘みたいに
とてつもなく遠く後ろにある
すべてもう終わった話だから