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魚座新月の詩

目の前の
揺れる木漏れ日を
雨上がりの虹を
水たまりに映った真っ青な空を
疑ってしまったら
何が残るっていうの

わたしの目にうつる光景は
小さなシミはあれど
充分に美しくて
やわらかい風の中に
悲嘆する兵士の声を
聞き分けることはできないし
春の匂いの中に
昨日ニュースで見たあの子の涙を
嗅ぎ分けることはできない

見えない血で目の奥を燃やし盲目になる
苦しんでいるのはわたしじゃないのに
泣いているのはわたしじゃないのに
この目にうつる世界の美しさに
どうしてこんなに
怯えているのか
誰が縫ったか知らない服を着て
誰だったのかわからない命を食べて
混ざり合うわたしたちは
同じ形にはならない
誰も傷つけたくないと思いながら
わたしの幸せが遠くの誰かに
銃口を向けているかもしれないことに
怯えてしまう
出てくる涙がせめて無駄にならないように
土の上に泣く

「新月がきれいだね」って
空を仰ぎながら
君はまるで太陽を見るような
眩しい顔をしていたね
見えない光を見ている君の目は
瞑られていて
その瞼の裏側で
春を待つ蕾のように
静かに熱く
生命を廻らせている
発光する君の瞼から
今にも花が咲きそうだった

海が脚を撫でるよ
やわらかい砂にぐっと踏み込めば
地球に減り込んでいくわたしの足
ひとつになりたいと願っても
どこまでいっても砂は砂で
わたしはわたし
さみしい奇跡が
わたしを生かしてる



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