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世界を想い、足元を見つめる。-ボルネオを訪問して教わったこと。

 SDGs、持続可能な経済や自然、"Think globally , act locally”などなど、人と自然がどのように付き合っていくか、について最近特に意識を働かせる標語や機会があるように思います。今日はこの話題について、「パーム油」を題材に考えてみようと思います。


ボルネオフレンドシップキャンプ

 今年の夏に、中学生~大学生を中心としたメンバーを募集し、赤道エリアのボルネオ島へ旅に出かけました。ボルネオ島は世界で3番目に大きい島で、島を横断するだけでも東京ー大阪間くらいの距離があります。熱帯雨林 に囲まれた野生動物の宝庫とも「呼ばれていた」島です。実は日本の生活と関連性の深いボルネオ島で美しい自然の裏にある環境と経済の課題についても学ぶスタディツアーの側面もある旅でした。

日本とボルネオのつながり「パーム油」

 近年この島では「パーム油」の生産が非常に盛んな産業になっています。アブラヤシからとれるこの油は「植物性油」と表記され、マーガリン、ポテチやアイスなどのお菓子類、化粧品など多くの食品や日用品に使われています。日本のスーパーの50%ほどの製品に使われている、なんて話も。
 日本は「パーム油」のほぼ100%を輸入に頼っており、そのほとんどがマレーシア、インドネシアで生産されています。ボルネオもそう。つまり私たちはパーム油の大きな消費国です。
 ボルネオの自然がこの50年で一変したそうです。

緑は自然林、灰色は都市部もしくは人工林。
自然の森は減少の一途をたどっている。
出展:WWFジャパン

 自然林が消えたところの多くは、先進諸国でパーム油として活用されるアブラヤシのプラントに変わっています。
 ボルネオにはボルネオオランウータンやボルネオゾウ、テングザルなどそこにしか生息していない貴重な動物たちがいます。しかし森がどんどんアブラヤシ化していくことで食べ物を失い、生活する場所を失い、生活が成り立たなくなってるのだそうです。

有名なテングザル。彼らは日中を森の中で過ごし、夜眠るときに外敵からの見通しが立ちやすい水辺に移動してくるのだそうです。 photo by Takakazu Yumoto
スカウという地域の川から眺めた1枚。手前の森は天然林。そのすぐ先に見えるのはもうアブラヤシ畑。川の側はアブラヤシが育たないので天然林が残っているが、それは川辺に沿って薄い森が残っているだけの地域も。さらに細かく残存する天然林が「分断化」されてしまい、森を行き来して生活する動物は生きていけなくなり絶滅への危機にさらされるわけです。

 こういう話を聞くとどうでしょうか。「パーム油は悪だ!」「パーム油から脱却した方がいい!」という感想を持たれる方も多いのでは。事実、今回出かけたメンバーでもそういう課題感をもって旅に参加した人もいましたし、私も消費抑制しかないのか…と思うところがありました。しかし、実際に現地で見聞きして少し印象が変わりました。

NGO HUTAN(フータン)から教わるパーム油の現実

 今回は旅に一緒に出掛けた湯本貴和教授のつながりでHUTANというNGOを訪問する機会がありました。現地の方が「ガイドより詳しい」とする湯本教授に現地スタッフの通訳と解説をお願いしました。

湯本教授(右)は京都大学の霊長類研究所の前所長であり、日本生態学会の元会長でもいらっしゃいます。この分野のスペシャリストであり、今回ご縁あって旅に同行いただきました。
左はHUTANのスタッフで今回いろいろ教えてもらったアマンダさん

 大量消費・生産されるパーム油(アブラヤシ)ですがその背景は単純なものではありませんでした。

・1950年代ころから木材輸出のための大量伐採が始まり、多くの土地が丸裸になった。ちなみに、この時多くの木材が日本に出荷された。(日本の林業が衰退した格安材の輸入元の一つ)
・木材ののち、大きな需要が起きたのがアブラヤシだった。アブラヤシは暖かい気候でないと育たたないため、ボルネオは適地だった。
・森林伐採で荒れ地になった場所にアブラヤシの畑ができた。(単にアブラヤシために伐採をしたわけではない。が、その後の需要の高まりで耕作面積が増えた。)
・アブラヤシはボルネオでは主要産業であり、現地の経済を支えている。現地の人からしたら日本人が米を作るような感覚の産業に成長している。
・生産されたアブラヤシはほとんどが先進諸国へ出荷されている。
・パーム油は、他の植物性油(菜種や大豆など)に対して10倍の効率の良さを持っている(つまり他の油に乗り換えると10倍の面積を必要とする)

HUTANでのレクチャーと湯本教授の解説より

 こうして学んでみると、確かにボルネオの森林は伐採され動物との軋轢は解決しなければいけない社会課題である一方、パーム油は地元経済を支えており、他の油に単純に乗り換えると、ともすればより自然を壊す可能性にもつながる…。ならば消費量を落とせばいいかと思えば、おそらく先進諸国に住んでいる我々もこれ以上生活の質を落としてまでも…ということに賛同は得られない。
 こういう論点で考ていくと答えが出ない課題に思考が止まるのです。その先に待っているのは「ま、しょうがない」となる。それは即ちボルネオの自然と動物の絶滅に目をつぶることになる。”SDGsなんてナンダソレ”の世界になるわけです。

HUTANの取り組みと新たなキーワード 

 そういう現実をとらえているHUTANでは、地域経済と動物たちの保全が両立するような考え方や取り組みを行っていました。具体的には…。

・分断化されてしまっている野生動物の住む森の間に、オランウータンや動物たちの好む植樹と樹木メンテナンスを行い、「森の回廊」を作る。
・アブラヤシ畑の土地管理者に協力してもらい、回廊に必要な土地を譲ってもらうあるいは貸してもらう。
・動物たちが害獣ではなく、たとえば先祖の化身など「尊い存在」として身近な存在と捉えてもらえるような地元住民への教育活動を行う。
・回廊の植樹やそのメンテナンス、苗木の養育を新たな産業として地元の経済活動へ貢献する。(他の物で経済が成り立つような仕掛け)


このような取り組みと、持続可能な生産方法を採用する業者への認証などを通じて、動物と地元の経済が両立する社会の実現を目指しています。

 こうした取り組みのコンセプトは
Holistic community based conservation”(地域経済と自然が両立する保全) と定義されています。これからの合理的な考え方になりそうです

HUTANを訪問して体験した植樹。オランウータンや野生動物たちが好む樹木を植え、メンテナンスをし、数年かけてアブラヤシ畑に分断化された天然林をつなぐ「回廊」を作ります。経済活動を支えながら動物たちが住める環境を増やしていく取り組み。

さて、消費者ベースでは何ができるのか…。

 現地ではこうした努力によってより良い保全のカタチが生まれつつありますが、パーム油の恩恵を受ける消費者サイドはどんな取り組みが貢献できるのでしょうか。
 わかりやすい結論としては、「持続可能な生産認証を受けている製品を積極的に購買する」と言えるかもしれません。”RSPO認証”のような持続可能なパーム油は日本でもいくつかの会社がすでに導入を進めています。

国内の製品にもすでにRSPO認証油が使用されている品物が出ています。
このマークが目印(出典:カルビー)

 国内の話でいうと、農林水産省は令和3年にこんなレポートを出しています。

農林水産省:令和3年度 「持続可能性に配慮した原材料調達」に関する認証システムの調査・分析委託事業より。

RSPO認証素材の導入に関する課題感としては次のように分析しています。

農林水産省:令和3年度 「持続可能性に配慮した原材料調達」に関する認証システムの調査・分析委託事業より。

 消費者の関心がなく、需要が低ければ生産側は安いコストを重視した調達に走る。それは生産地の環境を圧迫させる。多くの人が大事にしたいと考える野生動物は姿を消す。こういうスパイラルです。
 

HUTANの担当者の話でこんなトークが印象的でした。

「RSPO認証など持続可能化された商品を使うことが、消費者側から生産者へのメッセージになる。それしか持続可能な方法はないのではないか。」

HUTANスタッフ

 ボルネオの自然が今後どうなるのかは、エンドユーザーである我々の消費行動に委ねられている、ということですね。次回以降「植物性油」製品の買い物から意識してみたいものです。

ボルネオのジャングルに住むブタオザルの子ども。
彼らの未来は、私たちの消費行動に委ねられている。野生動物へも「こどもまんなか社会」になるといいな。  photo by Takakazu Yumoto

ひの自然学校 寺田まめた

#ボルネオ #SDGs #持続可能 #パーム油 #アブラヤシ #植物性油 #豊かなくらし  

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