ひの自然学校流 アウトドアのすゝめ【登山ハイキング読図編①】
花見の時期も終わり、すっかり新緑の季節となりました。3年にも及ぶコロナの脅威もようやく落ち着きを見せ、これからの季節はより一層アウトドアレジャーへの注目が集まりそうですね。
さて、今回は「登山・ハイキングの地図読み」をテーマに、半分は皆さまにお伝えできる“アウトドアテクニック”として、もう半分は普段の子どもたちとの活動での“ディレクターの視点”として紹介したいと思います。山歩きで「“地図読み”なんかしないよ…」という皆さんにも是非ご覧いただければ幸いです。
そもそも、登山・ハイキングにおける“地図読み”って何でしょうか。
日本は比較的に整備された山々が多く、分岐点ごとに標識や案内図が立っていたり、自然保護の観点から木道が設置されていたり、地図がなくとも“道を辿って行けば歩いて辿り着く”山が多いのかもしれません。もしかすると、これを読んでいる方の中にも“地図を持たない派”の方々がいらっしゃるかもしれません。
しかし!山を侮ることなかれ!令和3年度山岳遭難の原因のトップは、なんと「道迷い」なんです…。その後に「転落・滑落」が続きます。しかも、平成26年以降「道迷い」は首位をキープしています。
近年、スマートフォンの普及により登山地図も進化を遂げ、「YAMAP」や「ヤマレコ」といった登山地図アプリが開発され、GPSにより山の中でも現在地がわかるようになった時代が来ています。それでもなお、状況が変わっていないというのは一体どういうことなのでしょうか。
その理由は一概には言えませんが、刻一刻と変化する天候や「行ったことがあるから大丈夫だろう」というような過信が、遭難を招いているのかもしれません。
だからこそ、山の中では“どこにいるのか”“これからどこに向かうのか”“目的地までどういう道のりなのか”を自身で判断・決定しながら進んでいくことが安全登山の第一歩になるのです。
〇「登山地図」と「地形図」の違い
登山で使用する地図には、大きく分けて2種類あります。1つが「登山地図」と言われるもの。「登山地図」のメリットは、その山域の登山ルートやルートごとの所要時間、水場や山小屋・売店の情報といった、登山するうえで欠かせない情報が満載です。さらに、1年に1度情報が更新されているため、有料にはなりますがよく整備された山においてはとても便利なアイテムです。(昭文社「山と高原地図」が登山地図の代表格。)その反面、メジャーな山域やルートに限る為、里山やマイナーな山々の地図は存在しません。
また、地図によって縮尺が一定でなかったり、等高線がはっきりしないものがあるため、地形を読むには不向きです。一方で「地形図」と言われるものは「登山地図」とは真逆で、登山ルートの詳細や山小屋などのインフォメーションがない代わりに、マイナーな登山ルートが“徒歩道”として描かれていたり、等高線がわかりやすく表わされているため、地形が読み取りやすい特徴があります。また、国土交通省が提供する「地理院地図」は誰でも無料で閲覧・印刷することができ、ほぼ全ての山域をカバーしています。つまり、「登山地図」や「地形図」にはそれぞれにメリット・デメリットがあるわけです。
登山・ハイキングを計画する準備段階では「登山地図」を用いて、行程時間や水場やトイレ、山小屋などの情報を“事前”に確認しておく。登山・ハイキング中は「地形図」を用いて、標高や地形から現在地を把握したり、目的地までの道のりを確認したりするなど“事中”の安全確認をしながら進んでいく。というように、役割が違うものなので、それぞれの短所を補いながら、自身の登山スタイルや行程に合わせて使い分けたり、併用したりすることが大切なのです。
○地形図を読んでみよう!
ここからは少し復習タイム!
登山地図はある意味“案内書”ですので、登山が初めてな人でもわかるように作られています。しかし、地形図はちょっとした知識と技術、それから“慣れ”が必要になります。地図記号や地形図は習う学年は違えど、小中学校までに習う必修項目です。(のはずです(笑))
皆さんは地形図のことをどれくらい覚えているでしょうか?
地形図の特徴
縮尺:国土地理院が発行している地形図は「1/10,000」「1/25,000」「1/50,000」の3種類あります。登山で多用されるのは主に「1/25,000」の地形図で、地形の読み取りやすさを保ちつつ広域な範囲を見渡すことができます。ここで大切なのは、縮尺上の実際の距離です。「1/25,000」の地形図であれば「1cm=250m」ですから、地形図上の4㎝が実際の1㎞の距離となる計算になります。
等高線:その文字通り「等しい高さを結んだ線」で、「1/25,000」の地形図では等高線は10m間隔で引かれています。国土地理院の地形図であれば、50m間隔で等高線が太線になっているのが特徴です。地形図を全体的に見て、等高線が密集して濃く見えるところは標高差が大きく急な地形であり、逆に、地形図上で色彩が薄く見えるところは緩く平坦な地形になっています。つまり、等高線の間隔が狭ければ狭いほど“急斜面”、等高線の間隔が広ければ広いほど“緩斜面”であることがわかります地図記号
地図記号は全部覚えようとするとなんと161種類もあるそう…。
登山・ハイキングの範囲内で161種類も地図記号は出てきませんので、主要なものだけピックアップして覚えておけば良いのです!登山地図のようになかなかインフォメーションの少ない地形図ですが、こういった地図記号が目印になって現在地の把握をするためのヒントを得ることが可能になります。“4地形”を理解しよう!
山々は、富士山のような独立峰を除いて、尾根や谷があったり、頂上と頂上が連なっていたり、とても複雑な地形をしています。①にて、等高線から斜面の緩急を読み取れることがわかりました。その他にも、等高線の様態から読み取れる情報が“4地形”です。4地形とは「尾根・稜線」「谷・沢」「頂上(ピーク)」「鞍部・峠(コル)」のことで、それぞれ等高線の様態に特徴があります。
「尾根・稜線」:頂上(ピーク)から谷に向けて伸びる周囲より高い部分の連なりであり、地形図上では頂上(ピーク)の閉じられた等高線の外側から次の等高線が外側へ膨らんでいるところ。実際にこの場所に立つと、周りは開けた見晴らしの良い場所になっています。
「谷・沢」:尾根と尾根に挟まれ低くなった地形で、地形図上では等高線が尾根や頂上(ピーク)の方向に膨らんでいる(食い込んでいる)ところ。実際にここに立つと、周りは斜面に囲まれており、場合によっては沢が流れていることがあります。
「頂上(ピーク)」:周辺の地形では一番高い場所にあり、地形図上では等高線が小さく丸く閉じているところ。
「鞍部・峠(コル)」:尾根上の低くなっている部分で、地形図上では尾根線を辿って行くと下りが登りに変わっているところ。
○“地形図”を使うことでできること
前述したように「地形図」は山行中にその能力を発揮します。地形図を使うことによって、山の中で「自分の居場所を把握」と「現在地から目的地までのルートを確認」をすることができます。そのうえでイメージした道を「イメージした通りに歩く」ことによって正確な道を進んでいくことができます。
A「自分の居場所を把握」:まずは出発前に「今自分がどこにいるのか」を確認します。急な斜面上?緩い斜面上?尾根地形?谷地形?近くの建物や標識など目印のなるものは?等、まず自分のいる現在地を把握しないことには始まりません。
B「現在地から目的地までのルートを確認する」:自分の現在地が把握できたら、次の目的地までの道のりにどういう過程が待っているか、地形図上からイメージします。この先の道は急斜面?緩斜面?登り?下り?尾根地形?谷地形?どれくらい歩けば次の目的地に着く?等、これから歩くであろうルートを先読みして、そのイメージを頭に入れておきます。
C「イメージした通りの道を歩く」:Bでイメージしたルートを実際に歩きながら、ルートを維持していきます。ここで大切なのは、「多分大丈夫だろう」ではなく「これで合っているかな」と、自身のイメージしたルートと実際のルートを対比させて、常に疑いながら進んでいくことです。(例えば、イメージ上では“ずっと登っている”はずなのに、実際の道で“下り”が出てきたら、イメージと現実にズレがあることがわかりますよね)
Cまで来たら、再びAに戻って現在地の把握をする。このABCのサイクルが、より正確な地図読みに繋がっていきます。
「いやいや、そんなことするくらいなら、スマホのGPS機能使えばよくない?」
確かに、現在地を把握したり、来た道をトラッキングするだけであれば、自身が地形図から読み取るよりもスマホに頼った方が断然正確で早いでしょう。しかし、そんなスマホも、電池切れや故障の可能性もゼロではないですし、拡大縮小ができるとはいえ、山を俯瞰的に見たり、先を読んだりするには不向きなアイテムです。山の中に出かけるのであれば有事に備えておくのは言うまでもありませんね。だからこそ、登山やハイキングをする上では、地図読みの技術、強いては適切な地図(登山地図・地形図・アプリ)を選んで使うことが大切になると思います。
ちなみに筆者は、自身のプライベート登山で、地形図を読み込むためにとあるゲームをしていました。
その名も「現在地同定ゲーム」です!(笑)
その名の通り、行き慣れた山に地形図と登山アプリを持参し、特定の場所で地形図上のどこにいるのかを当てる単純明快なゲームです。今いるところは「急斜面or緩斜面?」「尾根上or谷上?」「ランドマークになる建物はある?」「周りの木々は針葉樹林or広葉樹林?」等、周りの情報を総合的に判断して現在地を同定します。そして最後は現代の文明の利器に頼って答え合わせ。地形図とGPSの指し示す場所が一致している時の快感が忘れられない!!そんなゲームをすること3年、ようやく地形図を見ただけで山を立体的に捉えられるようになりました(笑)
今回紹介した「地図読み」は、登山やハイキングに行かなければ使わないであろう知識と技術ですが、「いざ行こう!」とした時には身の安全のためにも必要なスキルとも言えるかもしれません。知識や技術を身につけてしまえば、GPSと同じくらい正確な“地図読み”が可能になるわけですからね。もし、登山やハイキングに出かける際にはぜひとも“地形図”を片手に行ってみてください!
記事:若泉わか(ひの自然学校サステナブル レスポンシビリティマネージャー)