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Vol.1 法定耐用年数と経済的耐用年数

(この記事で取り上げる数字は机上の計算であり実際とは大きく異なります。あくまでもイメージとして捉えて下さい)

収益用不動産を購入するにあたって最大のハードルと言っても過言ではないのが「融資」。特に個人ではなおのことでしょう。
例えば5,000万円の物件を購入する際、自己資金で5,000万円を準備できる個人はほとんどいないでしょうし、仮に準備ができたとしてもそこに全額キャッシュを投下する人はまずいないと思われます。

資産家、高属性のサラリーマンや士業であれば個人でもフルローンやオーバーローンの可能性もありますが、一般論として収益用不動産を購入するにあたっては


約2割の自己資金が必要


と言われています。


融資を受けて収益用不動産を購入する最大のメリットは「レバレッジ」。仮に自己資金として1,000万円あれば5,000万円の物件が購入できる可能性があるということです。
自己資金1,000万円を使って1,000万円の物件を購入する場合と融資を受けて5,000万円の物件を購入する場合、どちらの物件も同じ利回りであれば5倍の利益を得られる可能性があるということです。
もちろん融資を受けるということは返済もしなければならないため最終的な手残りが5倍ということにはなりませんが、それでも数倍の手残りになると計算できます。
その手残りをより増やすためには「返済期間」がとても重要です。自己資金1,000万円を使って5,000万円の物件を購入する際、4,000万円の融資を受けることになります。その4,000万円を何年で返済するか?仮に固定金利2%として月々の返済額を比較してみましょう。


返済期間  5年 70.1万円
返済期間10年 36.8万円
返済期間15年 25.7万円
返済期間20年 20.2万円


返済期間が長ければ長いほど当然ながら月々の返済額は小さくなる=手残りが増えることを意味します(ただし利息=支払総額は増えます)。
5,000万円の物件の利回りが10%の場合、月々の家賃収入は41.6万円ですので返済期間5年ではマイナス、10年でもほとんど残らない、15年以上は必要、こんなイメージで金融期間と交渉することになるでしょう。

ここまでが前置きです。
多くの金融機関において返済期間を設定する際に目安としているが


法定耐用年数


これは不動産の建物部分の減価償却を行うにあたって設定されている数字であり構造によって以下のように定義されています。


木造 22年
鉄骨造 34年
鉄筋コンクリート造 47年


この数字と実際の建物の寿命は必ずしも一致しませんが、何らの基準がないと税金の計算ができないためこのように設定されています。
多くの金融機関はこの法定耐用年数(またはさらにそこに掛け目を入れる)から築年数を引いた期間以内を返済期間として設定しています。例えば鉄骨造で築20年であれば返済期間は

34年-20年=14年未満

となります。

これを上記で例とした5,000万円の物件で考えてみましょう。この物件の築年数が24年だったとすると返済期間は長くても10年、となると購入してもトントンを維持できるかどうか?(実際にはほぼ赤字確実)というラインとなります。

要するに「築古物件では融資を引きづらい」。仮に物件評価額(融資額)が十分であっても返済期間が短ければ収支が合わないのです。このような背景から築古の収益用不動産は流通しづらい環境になっています。
ところが現実には50年、100年ともつ不動産は山のように存在します。収益用不動産とは別世界ではありますが、京都奈良の寺社仏閣など何年存在していることでしょう。あれらは全て木造です。
要するに定期的な修繕を行っていれば建物の価値も維持でき利益を生み出せる期間も伸びる、それが


経済的耐用年数


という考え方です。

経済的耐用年数を用いれば流通性の低い築古物件でも商売ができる、そのマーケットはブルーオーシャンなのでは?このような考え方の下、2014年ごろから築古の収益用不動産にも積極的に取り組んできた金融機関のひとつが「西武信用金庫」だったのです。
自らマーケットを創造し事業を拡大する、この取り組み自体に何ら問題はありません。西武信用金庫は不動産鑑定士協会などと手を組み、経済的耐用年数を活用して融資額を伸ばしてきました。



さらに国もこのスキームを積極的にバックアップしていたのです。



ルールの則り正しく運用していれば何ら問題はありませんでした。ところがある時期から不正に手を染めた、そこが大きな問題なのです。もう一度、業務改善命令を確認してみましょう。


第2.処分の理由

当局による立入検査の結果や信用金庫法第89条第1項において準用する銀行法第24条第1項に基づき求めた報告を検証(注)したところ、金庫は業績優先の営業を推進するあまり、内部管理態勢の整備を怠った結果、以下のような問題が認められた。

ii 投資目的の賃貸用不動産向け融資について、融資期間に法定耐用年数を超える経済的耐用年数を適用する場合には適切な見積りが不可欠である中、経済的耐用年数等を証する書面を作成する外部専門家に対し、金庫職員が耐用年数や修繕費用等を指示・示唆するなどの不適切な行為が多数認められる。

https://lfb.mof.go.jp/kantou/rizai/pagekthp027000005.html


「金庫職員が耐用年数や修繕費用等を指示・示唆するなどの不適切な行為が多数認められる」


少なくても資料の残っている一定期間内だけでもこのような不適切な行為の証拠が258物件で見つかったことが明らかとなっています。

私が購入した物件がこの不正の対象だったのかはまだ明らかになっていません。私が西武信用金庫に問い質した際には「対象外」と口頭で説明されました。しかし、実際に私の手元にある経済的耐用年数を証する書面は


明らかに異常な数値


が記載されていたのです。



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