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扉が開いた体験.1
他人様に話すといつも驚かれるが、私は字が読めるようになった時のことを覚えている。
それは4歳の誕生日を迎える頃、雨の日だった。
その日、幼稚園の一室、私はひとりで『キンダーブック』を見ていた。
『キンダーブック』はフレーベル館が定期発行していた保育絵本で、幼稚園にはバックナンバーが並んでいた。
裏表紙には6コマ位の漫画が載っていて、雨とてるてる坊主の、どこか寂しげな話が載っていて、それが初めて読めた本だった。
雨の音と薄暗い部屋。遠くで聞こえる人の声。
突然、世界が広くなった感覚があり、
嬉しくて何度も何度もそのページを読んだことを覚えている。
ーーーーー
四天王寺の古本市で、私が字が読めるようになったタイミングの1号前の『キンダーブック』を見つけた。
読んだのが最新号でなく、バックナンバーの可能性もあるが、表紙絵に覚えのある号も見つけたので、あわせて購入した。フレーベル館発行だったことも、それでわかった。
母が言うには、私が近所のお友達の女の子(その子は字が読めた)と喧嘩した時に
「もう本を読んであげない」
と言われて、しょげかえっていたそうだ。
それから1週間経たないうちに、すらすらと文字が読めるようになった、と。
かなり驚いたようで「過去は振り返らない」が口癖の母が何度か話してくれた。相当強い印象を残していたようだ。
甥っ子(参)が、最近ひらがなを読めるようになった。
ひとつひとつ、形を大人に確認しながら読んでいるのをみて、
自分の経験した雷に打たれたような強烈な変化は何だったんだろうと、不思議で仕方ない。
記憶違いだろうか。
だが、高校生の頃に、私は同じような体験をしたことがある。
(続く)