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夜からの手紙 #毎週ショートショートnote

「この手紙が君の手に落ちる頃には、私はもうそこにはいないだろう。」

夜からの手紙は、いつもこの一文から始まる。
朝起きると枕元にある一通の手紙。
手紙には、概ね夜のことが書いてある。夜の静けさや空気、美しさと儚さ、昼との違い。夜の恐ろしさについて書かれていることもあれば、夜が舞台の詩や物語が綴られていることもあった。
私にはそのどれもが、とても魅力的に思えた。

何度か夜にあてて手紙を書いたこともある。
「私もそっちに行ってみたい」「今度来たら起こして欲しい」と。
夜からは「君にはまだ早い」と返ってきた。だったら、どうして。


ある夜、私は枕元の気配に飛び起きて空を掻いた。

「やぁとうとう捕まってしまった」

暗闇から確かに声がした。私は夜を捕らえた。

「ずっと待ってたの。私も連れてって」

「…もうこちらには戻れなくても?」

静かに首を縦に振る。

「誰もいない夜なら、あなたがいる方がいい」

そう言った瞬間、体がふわりと宙に浮いた。
そして私は、夜にのまれていった。


(419字)


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