創作リレー第8回「山小屋にて」の振り返り
メンバーシップ内「触れ合うプラン」「包み込むプラン」の掲示板で行っている創作リレー。
第8回が終わったので、今回もテーマ画像の試行錯誤や感想をまとめてみようと思います。
第8回のテーマは「山小屋にて」というタイトルでした。
秋は行楽シーズン!ということで山登りのイメージがなんとなく思い浮かんだ私。登山は人生で一回くらいしかしたことないけど、果たして山物語、書けるかしら。
とりあえずテーマ画像を作ってみよう!
というわけで、今回もお題のイメージ画像はAdobe Expressを使い、こんなワードで画像を生成してみました。
今回は最初から文章調なのでわかりやすいのではないだろうか。
AIさん、山小屋に入ったことのない私に山小屋を教えてください!えいっ!
山小屋っていうか別荘...?もしくは壁が一面派手に持ってかれちゃって途方に暮れているという感じでしょうか...。
もっとみんなでわいわい泊まるような山小屋を想像していたが、孤独感すごいな。
こちらはもはや山小屋というか、山頂の東屋的な休憩場所っぽい。
あっ...そうか、わかった!私は小屋の中の室内風景を期待していたけど、山を描かなきゃ「山小屋」にならないからAIさんは山を見せているのか!
そりゃそうだ。画像の中に山がなければ一体何小屋なのかわかるわけがない。馬小屋かもしれない。
それにみんなでわいわい泊まるような山小屋を想像してたなんて先ほど書いたが、私そんなこと入力したワードにどこにも書いてないじゃん。なんなら「静かな雰囲気」と書いている。AIさんはあくまで私の文言を忠実に再現してくれたのだ。
すまぬAIさん。これじゃあまるで、雰囲気で思いついたことを言われた結果、再現してみたら「え〜なんかちがーう。もっとこう」と最初に言ってもいなかったリクエストを追加してくるタイプのクライアント様じゃないか。そういうやつは大嫌いだ。(なんのはなしですか)
またしても私は自分の描くイメージを雰囲気で文章にしてしまっていた。
山小屋の様子はストーリーで綴ればよいのだと反省し、自分の思い描いている絵面を忠実に言葉にしてみる。
これでいかがでしょうか。
おぉ〜いいぞ!「座っている数人」はいないし、なんていうかラスボス感はまだ残っているがだいぶ理想の山小屋に近づいた気がする。
この2つ、だいぶイメージしていたものに近い!相変わらず人は1人だけど...えっ、私にだけ見えてないとかそういう怖い話じゃないよね...?
数人が座っている空間の中で1人の人影にフォーカスするような絵というのはやはり状況的に難しかっただろうか。
そして、ここまで近づいてわかったが、さすが山小屋を見たことがない私。自分の中でイメージがブレブレだったことに気づく。
テーブルがあると書いたくせに、頭の中では登山客が雑魚寝して眠れるようなスペースも同時に想像したりしていた。
あぁ、物を見てから実は違うのを想像してたってなるのって、こういう気持ちだったのか...。ついでに無茶振りするクライアント様の心境までちょっと理解できた。
よし、じゃあ雑魚寝バージョンの文言を書いてみて、それでいい絵だった方にしよう!
いきなり雑魚寝とか仮眠とか登山客とか盛り込んでみたけどいける...?どうですか?AIさん。
うわぁぁぁなんか謎の集会みたいになっちゃった。さっきよりも小屋が上質になったことで一層怪しげな雰囲気…。
これは...もう完全にメンターのいるなにかしらのセッションだよね。違うの、山小屋でそんなものを開催したかったわけじゃないの...。
あぁっ...!それっぽいけど、なんかみんな悲しそう。確かに「全体的に暗い空間」と書いたが、それは物理的な照度の話であってしょんぼりした人たちが集まっているっていうことではなかったのだが...。自分の言葉のチョイスがまだまだ甘いことを痛感する。
いや、AIさんはよくがんばってくれた。これは私の文章力の問題だ。もっと精進せねば...。
というわけで、一番しっくりきたこちらをテーマ画像に決定。
そして一ヶ月でできあがったショートストーリー。
今月は日野ソロリレーとなりましたので、全文公開します^^
今回のテーマで学んだこと。それは「知らないことって書けない!」です。そりゃそうだろうという話なんですが。
作家さんのインタビューやドキュメンタリーなどを見た時に、よく仕事部屋に今書いている作品の題材やそれに付随する資料がずらーっと並んでいたり、取材に行くという話も聞いたことはあったけど、なるほどそういうことかと改めて「描く」ということの難しさがわかったような気持ちになりました。
テーマ画像を作る時から山や山小屋についてイメージがうまく描けていなかったし、自分で決めたテーマのくせにいかに自分が山と遠い距離にいるかということが書きながらわかりました。
「でもこれは創作の物語だから」と思っていても、テレビを見ていて「いやいや実際そんな風にはならないでしょ」なんてツッコミを入れてしまう自分の性格もあり「これって...変じゃないかな?」とか「なんか不自然な気がする」なんて考えてしまったりして、書く手が止まるという。
創作を描く上でも、その世界にすんなり入り込むにはきっと周りの情景や人の仕草、空気感などの描写に引っ掛かりや違和感を感じないからこそ、するりとその物語に入っていけるんだろうなぁと思ったのです。
日常生活のシーンだと、どこか不自然な場面があると違和感を感じたり「あえて」みたいになってしまうし、なんていうんだろう...上手く言えないけど、ファンタジーでも空を飛べたり魔法が使えることには「え?なんで空飛べるの?」とは思わないけど、たとえば魔法使いがナチュラルに靴の上に靴下を履いていたら魔法云々よりそっちの方が気になるというか。
自分の中であまり知らない世界のことを描くというのは、いつの間にかそれをよく知っている人の「ん?」になるような気がして、そんなことを悶々と考えたりしながら書き進めました。
物語を描く上での大事なポイントのようなものが見えた気もしつつ、また一つ「書く」ということの面白さや難しさを感じた一ヶ月でした。
それでは、そんなこんなでできあがった「山小屋にて」のストーリーをこちらにまとめます。
「山小屋にて」
「ご予約は?」
「いえ、してません。思った以上に時間がかかってしまい、もし空いているようだったらこちらでお世話になれないかなと...」
「そうでしたか。ちょうど今日はガラガラだったんで大丈夫ですよ。ただうちは厨房を閉めちゃうのが早くてね。もう夕食も終わってしまってるんで食事は出せないですけど、カップ麺なら売ってます」
「よかった。助かります。じゃあそれも一つ下さい」
「はいはい。奥の食堂にお水やポットなんかは置いてるんで、自由に使って下さい」
「ありがとうございます。お世話になります」
50を過ぎてから始めた登山。いつもは日帰りで登っていたのだが、途中で少し足を痛めてしまい気づけばもうこの時間。
無理に下山するのは諦めて、山の途中にあった小屋を尋ねた。
簡易宿泊所になっているそこは1階が食堂になっていて、2階で寝泊まりできるとのこと。軽装で来てしまったので雨風が凌げるだけでも十分ありがたい。
ほっと一安心して1階の食堂に向かうと、夕食の時間が終わり静まり返った空間に1人の男性が座っていた。
後ろ姿で顔はよくわからないが自分と同じか、いや、もう少し年上くらいだろうか。
挨拶すべきだろうかと悩みながら電気ポットの方に歩いて行くと、足元の古い床材がギッと軋み、その音で窓の外を見ていた男性が振り返った。
「やぁ、どうもこんばんは」
「あ、こんばんは。お邪魔します」
「どうぞどうぞ。お邪魔しますも何も、私もただの客ですから」
この小屋にすごく馴染んでいるような雰囲気で座っていたもんだから、てっきりここのスタッフの人だろうかと思ってそう言うと、男性は笑いながら答えた。
「今日はここに宿泊ですか?」
「はい。日帰りで下山する予定だったんですが、ちょっと足を痛めてしまいまして」
「おや、それは大変でしたね」
「いえ、大したことはないんです。まぁでも年も年なんで無理をしない方がいいかなと。ちょうどいいところに宿泊所があって助かりました」
「なるほど。自分が思っているよりも体は年をとったなぁと思うこと、ありますよねぇ。わかります」
「ですよね」
そんな会話をしながら受付で買ったカップ麺にお湯を入れ、なんとなく男性の近くのテーブルに向かった。
あまり社交的な方ではないので、こういう時に話しかけていいものか、どのあたりに座ればいいかなんて考えてしまうが、しばらく会話が続きそうな気がしたので話しやすそうなところに腰掛ける。
「今日は、どうしてこの山に?」
男性にそう聞かれ、蓋がペロンと浮いてしまったカップ麺の上に箸を乗せながら答える。
「登山好きの会社の部下に勧められまして。ここはそこまできつくないから初心者向けだと教わったんです。実は最近登山を始めたもので...」
「そうでしたか。確かにここは登りやすくていいですね。昔は小学生の息子を連れてよく来ましたよ」
そういえば部下も一番最初に登ったのは子どもの頃だと言っていた。
なるほど、だから初心者の僕にこの山を勧めてくれたわけだ。
「へ〜親子で登山、いいですねぇ。僕はずっと独り身なので、羨ましいです」
幼い頃に両親が離婚し、結婚に対してあまりいいイメージがなかったこともあってか今まで自由気ままに1人で生きてきたが、なぜか同世代や年長者の人と話すとつい自虐っぽく言ってしまう。
世代的にも圧倒的に既婚者の方が多いため、いつも間にかこんな風に結婚できなかった独り身というような言い回しをするようになった。
少しも羨ましくないと言えば嘘になるが、自ら選んだ人生で実際後悔もしていなければ、この先結婚する気もないのだが。
僕の言葉に、男性はふっと笑いながら少し寂しげに答えた。
「私も今や独り身ですよ。かなり前に離婚しましてね。息子とも別れてからは一度も会ってません」
「そう、でしたか...」
なんとも言えない相槌を打ちながら、気まずくなってぺりぺりとカップ麺の蓋を開ける。
彼は、息子に会えない代わりに思い出の山を登っているのだろうか。子どもも、ましてや妻すらいない自分にはいまいち男性の心境が掴みきれず、うまい言葉が出てこないまま無言でずずーっとカップ麺をすする。
あぁ、うまい。あたたかい液体とやわらかい麺、ちょっと濃いめの塩味が体に染み渡る。一口食べると、空腹だったこととかなり疲れていたことを体が思い出したようで、僕は一気に麺をすすった。
「いやぁ、うまそうに食べますね」
「ははは、すみません。腹が減ってたもんでつい...」
「いえいえ、とんでもない。それにこの匂い、懐かしいな」
そこから男性は、ぽつりぽつりと語り出した。
「そのカップ麺もよく食べましたよ。ここは昔からずっとそれしか置いてなくてね。下山する前に最後の休憩でいつもここに立ち寄るんですが、息子が腹が減ったとせがむんですよ。
でも妻はこういうのを息子に与えたくなかったみたいで、家ではカップ麺は禁止だったんです。それにここで食べると帰ってから夕飯が入らなくなるもんだから、それで妻に食べたことがバレたりしてね」
「ははぁ、なるほど。でも、禁止されてると余計食べたくなりますよねぇ」
「そうそう。だからじゃあこれは父さんと2人だけの内緒だぞなんて言って、夕飯も食べられるように1個だけ買って2人で食べたなぁ。あの時の息子のうまそうに頬張る顔は今でもよく覚えています。...いや、すいませんね。こんな昔話ばかりして」
「いえいえ、いい思い出ですね」
そう言いながら、僕は不思議な感覚を覚えていた。
なんだか今の話、妙に身に覚えがある。登山なんて幼い頃にはしたことがないと思っていたが、自分にも似たような経験があったのだろうか。僕は、誰と山に登ったのだろう。
そしてもう一つ頭をよぎったのは、この山を勧めてくれた部下のことだった。
「日帰りだったら寄らないかもですけど、下山する途中に宿泊所があるんですよ。自分も泊まったことはないんですが1階が食堂みたいになってて、そこで食うカップ麺がやたらうまいんですよねぇ」
これって、もしかして...
僕の頭の中では、それぞれのストーリーが繋がっているように思えた。
この話を彼に話すべきだろうか。いや、ここを登る親子なんてそれこそ山ほどいるだろうし、こんなエピソードはよくある話かもしれない。
色々考えた結果、僕は何も言わないことにした。
思い出や人の記憶というものは、日々自分の中で忘れ去られていったり輝かしく再構築されていくものだ。それが事実とは違っていても、人はその思い出があることで生きていけたりもする。思い出だからこそ美しく残り続けることもある。
きっとこの山小屋には、立ち寄った人の数だけさまざまな物語が詰まっているのだろう。そしてこの男性にも、部下にも、もしかすると僕にもそれぞれの山の記憶があるのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕は初めての、どこか懐かしい山小屋で眠りについた。
<完>
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