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人生初のメイクレッスンに行ったら、イノセントオバサンが爆誕した。


メイクに興味を持ったのって、いつだろう。
毎日なんとなく何かしらを顔面に塗ってはいるものの、私の人生においてメイク、お化粧は大人になった今でもかなり疎遠なものであると思う。

メイクの仕方、新しいコスメ、最近のトレンド、デパートのあの売り場。最近はコフレって言葉も聞いたことある気がするけど、コフレって何?コスメと何が違うの?という状態。
メイクに関しての色々が、私はほとんどわからない。

クラスのみんながメイクに興味を持ち始めた中学生くらいの頃、私は母から「そんなのしなくていい」というような否定的な言葉を何度も聞いてきた。
母はおそらく肌が弱かった私が色々やると荒れたりかゆくなったりするんじゃないかと心配していたのだ。
母自身もそこまでメイクに興味がない派の人だったようにも思う。もしくは結婚して東京から辺鄙な町にやってきて、デパートもないし子育てでそれどころじゃないわい!とだんだん縁遠いものになっていったのかもしれない。


そんな影響もあってか、メイクは私の中であまり歓迎されない手を出しづらいものというイメージがあった。
いや、人のせいにしてはいけない。それも一つの要因だったかもしれないが、そこから大人になっても引き続き大して興味を抱かなかったということは、おそらく自分自身もそこまで気が向かなかったのだと思われる。

そんな私は先日、とあるメイクアップサロンに行った。メイクの体験レッスンを受けるために。


なぜ受けようと思ったかというと、例によって思い立ったが吉日、ノリである。たまたまSNSで「3000円でプロのカウンセリングとメイクアップを体験できます」という広告が流れて来て、ふとそれが目に止まった。

いつもは何も思わないのに「行ってみようかな...」と思ったのは、去年トルコに一緒に行った友人に旅先でメイクをしてもらったからかもしれない。
「ヒノちゃんの顔メイクしてみたい!」と言われ、旅行中何度かお化粧をしてもらったのだ。


私は今まで旅友トリちゃんのことを自分と同じようにそこまでメイクに興味がないタイプなのかなぁなんて勝手に想像していた。しかし、彼女の「これは、あんまりお化粧してないっぽいお化粧をしているんだよ...」という言葉に恐れ慄いた。
なんと...さてはトリちゃん、私よりも遥かに手練れなんですね...!?

「ヒノちゃんはねぇ、もっと眉毛を変えた方がいいと思うんだよね。眉尻とかほぼ描いてないでしょ」

「うーん...なんか後ろの方がキリッとするのあんまり好きじゃないんだよ。眉頭は生えないから描くけど」

「むしろそこはそんなにいらないと思う。ほら、こうやってぼかしたら描いてるけどキリッとしないでしょ?」

「ほ、ほんまや...キリッとしてないけどある...!すごい!」

「アイラインとかアイシャドウも、もっとふわっとした感じが似合うと思うんだよね〜顔的に。なんていうか、イノセント系っていうの?」

「イノセント系...ですか」

そういうジャンルがあるかはよくわからないが、とりあえずせめてそれっぽいBGMでもと、ミスチルのイノセントワールドを口ずさみながらトリちゃんにイノセントメイクを施される私。

そして仕上げてもらった顔を見て、私はあらまぁと驚いた。トリちゃん、すごい!確かにいつもの顔よりほわぁ〜みたいなイメージになった気がする。これが、イノセントな私...?


というわけで、回想にかなり時間がかかったが、要するにトリちゃんにメイクをしてもらっていつもとは違う顔でトルコの街を歩いたのが楽しかったのだ。その記憶を思い出し「プロにアドバイスしてもらったら、私ももうちょっとメイクが好きになるかもしれない」と思い立ったのである。

予約のページに飛んでみると、ちょうど出かける予定だった六本木付近にいい時間で枠が空いているではないか。
これは吉日だ!今日行けということだ!
そう思った私は小一時間後の予約枠をさっそく押さえた。

にしても六本木か...。なんだかいきなりレベル700みたいな場所で予約してしまったな。渋谷店の方がよかった?いや、でも渋谷顔になってもな...。なんて「んなわけない」と突っ込まれそうな先入観ばかりが頭を巡る。知らないことに足を踏み入れる時って大体こういうアホなことを考えてしまう。


ちょうどいい場所にあってよかった〜なんて思っていたのだが、お店に向かううちにだんだんと緊張が高まってきた。ビルに着いてエレベーターに乗る。どうしよう、着いちゃった。あわわ。
そしてお店の扉を開けた瞬間、目の前にはキラキラなお姉さんお兄さんと大きな鏡の席、そしてたくさんのメイク道具が並んでいるのが見えた。

「いらっしゃいませ〜!ご予約のお客様ですか?」

声をかけてくれたスタッフさん、かなり若い。っていうか、店員さんみんなめちゃくちゃ若くないですか...!?
私、なんか場違いなところに来てしまったのでは...なんて思いながらもおろおろと名前を言って、案内された席に座る。

「最初にカウンセリングシートのご記入をお願いします」

渡されたタブレットを持って、入力画面を見る。
自分の顔のどこが好き?どこがコンプレックス?どんなことを相談したい?なりたい顔、憧れの有名人は?など、選択項目や記載項目が次々と出てくる。


...どうしよう。わかんない。
というか、何も考えてなかった。
とりあえず選択項目はそれっぽいのを埋めるも、具体的な内容を記載しなければいけない項目は全く想像ができず、ほぼ空白にしてしまった。
テレビ番組の事前アンケートだったら「チッ使えんな」と思われるやつ。話を振ってもらえず爪痕を残せないタイプである。

タブレットを返却し、鏡に映る完全に怖気付いた自分を眺めていると、しばらくしてお姉さんが現れた。
最初に入口にいた海外セレブ系メイクの女の子と、K-POPアイドルのような男の子ではなかったことになんとなくホッ。
いや、プロなんだからその人がどんなメイクでも違う性別でももちろん対応可能なのはわかっているのだが。


担当してくれたのは華奢で目が大きい美人なお姉さん。マスクをしているので目元しかわからないがとっても綺麗だ。
年齢は私と同じくらい…だろうか。入口にいた店員さんと比べてなんとなく近しい年齢の人が対応してくれたような気がする。

しかし、ここからのカウンセリングが地獄だった。
今日はどうしてここに?とかお仕事は何をされてるんですか?などの質問は答えられたものの、どんな風になりたいか、困っていることやアドバイスが欲しいのはどんなことかというメイクの質問になると、もう、さっぱり答えられないのだ。
自分から予約してきたくせに「いやぁ別に...」とか「特に何も...」みたいなことしか言わない最強にめんどくさい客である。

「じゃあ、アイメイクは普段どんなのを使ってますか?」

「えーと...お、覚えてないんですけど、なんか紺色のスティックのやつで...」

マジで何しに来たんだという感じだが、私はその日自分のメイク道具を持ってきていなかった。でもわからないものもあったけど、どこのメーカーなのかわかるものもある。
しかし、私はそれを言えなかった。恥ずかしいと思ってしまったのだ。

キラキラした場所と美しいお姉さんを前にしてすっかり萎縮してしまい「でもあれ安いし...」なんて思ったり「そんなの使ってるのかよって思われるかも」なんて考えてしまって、無知だから来ているというのに変なプライドが邪魔をして答えられなかったのである。どこまでもめんどくさいヤバ客。


お姉さんは1ミリも嫌な顔をせず、私から得た紺色のスティックというわずかな情報で「こういうのですかね?」とアイライナーをいくつか持ってきてくれた。

「リキッドタイプですかね?それとも繰り出すやつ?メーカーじゃなくても、どういうものでいつもメイクされてるかが知りたいので〜」


なるほど...!そういうことか。そうだよね。
当たり前だが「あぁその化粧品はダメですね」なんてそんな査定をするわけない。自信がないあまり縮こまってしまったが、そこがわからなければ普段のメイク道具を活かせる方法もアドバイスできないだろう。

これは、あれと一緒だ。
私だって「ドアが壊れました。鍵が開きません」と言われても、建具のメーカーがわからなくともせめて開き戸なのか引き戸なのか、鍵は電子錠なのかカードキーなのかサムターンなのかと聞くと思う。そういうことだよね、ごめん...。
顔面改善問題をドアの不具合に変換してもしょうがないのだが、これは多分そういうことだ。彼らはプロの目線で、何もわからず、何がわからないかもわからない私に丁寧にアプローチしてくれていたのだ。

「何も考えずに思いつきで来てしまい、すいません...」

「全然!嬉しいです!じゃあ私なりにこういうのが似合うんじゃないかなぁっていうのをちょっとやってみましょうか」

「お願いします!」

「そうですね...今のお客様のメイクは結構キリッとしてるというか、色使いもどちらかというと大人っぽい方向性なのかなと思うんですけど、そういう感じのメイクが好きかな〜って感じですか?」

「いやぁ特にそういうわけでもなく...なんとなくでやってました...はい...」

永遠に恐縮する私。

「じゃあ、もっと可愛い系がいいとかツヤ感を出したいとか、何かイメージってあります?」

そう聞かれて、私はトリちゃんのあの言葉を思い出した。いや、思い出してしまった。

「えぇと...なんていうか、イノセント系...?みたいな...?」

「イノセント、ですか...」

私は鏡越しにはっきりと見えてしまった。担当のお姉さんは私の発した謎の単語を真剣に紐解こうとしていたが、後ろでその様子を見ていたセレブメイクの女の子と韓流メイクの男の子が思わず笑いそうになっているのを。

「いやすいません!そんなテイストないですよね!」

「いえ、なんとなくわかりますよ。なんていうか、パキッとした感じじゃなくてフェアリーな感じですよね?」


フェアリー...
妖精である。フォローしてくれたが、イノセント及びフェアリーを求めている自分に猛烈に恥ずかしくなる。恥ずかしすぎて、退店した後「イノセントって...」と後ろで見ていた若手のスタッフさんにクスクスされる想像までしてしまった。
きっと私は、彼らから「いい年して何も知らないイノセントオバサン」と囁かれることだろう。確かにそういう意味では完全なる無知イノセントではある。
穴に入りたい気持ちで佇んでいると、お姉さんは全く動じず話を続ける。

「でも、たとえばイノセントでもあえて作り込んでいくイノセントと、ナチュラルな方向のカバー重視のイノセントもありますよね。うーん、どうしようかな。多分、お仕事的にも服装的にも作り込んでいく方のイメージがいいのかなって思いましたけど、どうですか?」

「...そうします!前者でお願いします!」

そうなの?仕事と服装的に私って作り込んでくイノセント系?
謎が謎を呼んでしまったが、私の迷言をきちんと拾って考えてくれるお姉さんに恐縮しながら全てを託すことに。


今回は体験だったので眉と目をやってもらったのだが、私が一番びっくりしたのは、ベースメイクをこんなにたくさん乗っけるんだということだった。
今までちょっとでも厚塗りしようものなら、なんかテカテカしてるし、いかにも塗ってる感があるし、シワとかいろいろな線が気になるような...と思っていた。
でもそこだけ見るとそうなんだけど、顔全体で見ると実はそんなに気にならない。むしろ、目元の肌色に統一感が出て透き通った印象を受けた。

そしてアイシャドウ。こっちは逆にこんなに薄くていいのか、しかも薄いのにそんなに何回も塗るのかとびっくり。
パレットの中の数種類の色をブラシで行ったり来たりするのもやったことがなかったし(そもそもブラシを持ってない)、それを肌に乗せる前にティッシュに一度とんっと置いたりしていて「えー!なんでつけたのに取っちゃうの?」なんて思ったり。
今まで私はアイシャドウはパレットに見えている色がそのまま目の上についていないと「つけた」にならないのではぐらいに思っていた。

そしてオマケで教えてくれたのが口紅。

「口紅、あんまり塗らないですか?」

「そうなんです、苦手で...」

酒飲みだからすぐ落ちるとは言えない。

「はっきり"赤ー!"みたいになるのがどうも似合わないように思えて...」

「なるほど、でももしかするとその"赤ー!"の赤の色によっても違うかもですよ?ビビットな色をつけすぎちゃってるとか」


それは...そうかも。いや、そうだわきっと。
「うわっ赤い!ダメだ、私に口紅は似合わない!」と思っていた。自分が違和感なくつけられる、気にいる色を探せばよかったのか。なんでそんなことも気づかなかったのだろう。
言われてみると目から鱗なことだらけで、やっぱり私は今までかなり無知というか無関心に近い無知だったのかもなんて思う。


そして完成した顔を見て感激。
おぉ...!なんかいつもと違う顔になっとる。何がどうとははっきりわからないが(わからないんかい)、肌が明るくなった気がするし、アイシャドウもこれはついてるの...?なんて思っていたけど、全体で見るとしっかりと、でもさりげない仕上がりで目元に彩りを感じる。
これが、プロによるイノセント顔...!

そうか。私は今まで木を見て森を見ず状態だったのかもしれない。肌なら肌、目なら目の周りだけをじーっと見つめすぎていて、顔全体として見た時に一つ一つの工程がどんな風に作用しているかという見方をしていなかったのだ。油絵もそうだよね。一箇所だけ見るとなんのこっちゃだけど、引きで見ると風景になる。建具になって木になって、油絵に置き換えられた私の顔面。

「うん、いい感じ!イノセントっぽいですよ!」

お姉さんは私の口走ったイノセントをだいぶ気に入ってくれたのか、何度もそのワードを使う。いや、もうほんと、ごめんなさい。許してください。
でも確かに、自分でメイクをした目から下の顔と、今やってもらった目から上の顔で全然世界観が違って見える。目から上だけイノセントワールド。


今回、勢いで行ってみて結果的にはすごくよかったけど、やっぱり学ぶからには自分の「なりたい自分」とはどんなものなのかを考えてから行った方がよかったなぁと反省した。
そりゃそうだ。可愛い、綺麗、かっこいい、(イノセント)、どの言葉をとっても、その人にとっての可愛いとはどんな感じなのかはその人にしかわからない。可愛いの方向性だって様々だし、手法も様々だ。

とりあえず、基本の眉を描くべき位置やどういう色味が合うと思うというのを教えてもらったので、それを参考にしながら自分の「なりたい顔」や「メイクでつくりたい雰囲気」というのがどんな感じなのかを見つけるところから始めよう。

これからどんどん歳をとるわけで、順当に顔もそうなっていくのだろうけど「いい感じだと思います!」と言ってもらえたイノセントメイク(?)が私も気に入ったので、まずこれを再現できるように頑張るぞ。

ちゃんとブラシも買って、赤ー!ってならない口紅も見つけて。
フェアリーなイノセントオバサンに、俺はなる!



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日野笙 / Sou Hino
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