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だろう温泉 #毎週ショートショートnote

ある山奥に太郎という心優しい男がいた。作物も育たぬ荒地を先祖が残した土地だと大切にし、1人慎ましく暮らしていた。

そこに突如温泉が湧いたものだから太郎は大喜び。「たろう温泉」と名付け、村人たちを招いた。
泉質の良い清らかな湯に恵まれ、すぐに人気の湯処になったが、太郎は皆を無償で歓迎した。道に迷う者がいれば自ら迎えに出る始末。


そんなある日、とある女が現れた。
身寄りがなく住み込みで働かせて欲しいと言う。太郎は女を受け入れた。
しばらくして恋仲になった2人は結婚。しかし、そこから温泉は一変した。
不思議なことに、透明だった湯が濁り始めたのだ。


太郎を手玉に取った女は、奇跡の濁り湯を謳って入浴料を跳ね上げた。さらに富裕層の中で人気が出ると、村人が来ても貸切だ満員だと言って門前払い。
逆上した村人たちは心まで濁ったかと嫌味を込めて看板に落書きをし、温泉に寄り付かなくなった。

いつしかそこは「だろう温泉」と呼ばれるようになったそうな。


(410字)


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日野笙 / Sou Hino
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