「ひたむきプレー」感動呼ぶ
キックオフ直前、被災地の釜石鵜住居復興スタジアムでは1分間の黙とうが捧げられた。あの東日本大震災から11年が過ぎた。釜石シーウェイブスも日野レッドドルフィンズも、誰もが特別な思いを胸に抱いただろう。
試合前日、つまり3月11日、両チームは釜石祈りのパークでの追悼式に参列し、慰霊碑に参った。試合後のオンライン会見。日野RDの箕内拓郎ヘッドコーチは言った。「たくさんの方々の思いが詰まった釜石の地で、ラグビーができることに感謝しています」と。
この11年間、筆者が釜石を度々、訪れて思うのは、人々の「ひたむきさ」である。実は、まだ復興途上、ひたむきに生きるということがいかに貴いのか。ラグビーもしかり、だろう。ひたむきなプレーは必ず、感激や興奮、時には感動を呼ぶ。
ひと言でいえば、この日の日野RDには「ひたむきさ」があった。1点差負けの死闘から6日。昇格をかけた入れ替え戦進出に向け、チームは土俵際に追い込まれている。箕内HCは「すべてをファイナルのつもりでやる」と言っていたものだ。
だから、この一週間、日野は自分たちの目指すラグビーにフォーカスした。原点回帰だ。フォワードだったら、セットプレー(スクラム、ラインアウト)にこだわり、コンタクトエリアでバトルする。前に出る。バックスはしっかりボールを回してスペースがあけば、そこを突いていく。橋本法史ゲームキャプテンは試合後、言葉に充実感を漂わせた。
「1週間、取り組んできたことが、今日はできたと思います」
今季はけが人が相次ぎ、戦力整備に苦労している。でも、フォワードの村田毅が戻ってきた。バックスの共同主将、オーガスティン・プルもゲームに戻ってきた。
彼らのプレーがなぜチームにエナジーを与えるのか。キャプテンシーというか、プレーに魂が込められているからだろう。ラグビーという競技は、目に見えないそこがものをいう。「チームとして戦うプレー」ができれば、本当の強さが生まれるものだ。
この日、グリーンのヘッドキャップをかぶった村田が何度もボールに絡んだ。右ひざのテーピングは痛々しいが、相手に挑みかかる気概にあふれていた。村田は2年ぶりの復帰戦となった前節の三重ホンダ戦のあと、こういうことを言っていた。
「僕がプレーできなかった時間も、チームは前に進んでいました。とくに若い選手がすごく伸びました。自分はまず、そこの競争にシンプルに勝ちにいく。グラウンドに出たら、高い運動量とワークレートをしっかりと出していきたい」
有言実行だった。今季初先発のフランカー李淳也も、CTB東郷太朗丸も、いぶし銀の光を放った。加えて、ロックのゼファニア・トゥイノナである。U18オーストラリア代表だった198センチの20歳。ラインアウトもだが、生真面目なフィールドプレーが光る。よく走るのだ。
この日はトライも挙げ、トゥイノナは「プレー・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた。副賞が「いわて牛の焼き肉セット」。表彰式では顔をくしゃくしゃにしていた。
もう、ひとり、ナンバー8千布亮輔にも触れておきたい。かつて釜石SWに所属していた。こちらも、ひたむきプレー。試合後、感慨深そうだった。
「(スタンドの)大漁旗を見て、やっぱり釜石はファンに愛されているチームだなと思い出しました。僕らも、ファンのみなさんに、何かを伝える試合ができたと思います」
最後に、再び、箕内HC。
「最後までしっかりあきらめずにプレーできたのは大きいなと思います」
さあ、レギュラーシーズンは残り3試合。「生きるか死ぬか」の試合がつづく。もう、チーム一丸、相手に挑みかかっていくしかあるまい。ひたむきに。
TEXT BY 松瀬学