見出し画像

思えば

思えば啄木は、幸福でした。友が皆、自分より偉く見える日でも、その寂しさを共有してくれる妻がありました。

友がみな/われよりえらく/見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ

花も妻も持たない私は、帰り道のカフェで独り、ソーダ水をかき回して時間を潰しています。今日、昇進試験の結果の発表がありました。

「ビジョンも戦略もない今のカイシャの片棒は、担ぎたくない」。受験の誘いを断った私は、でも、同期の名前が並ぶ紙片をまだ折り畳めずにいます。

炭酸が弾け上がる液体の中で、一つ、頑なに氷にしがみ付く泡を見詰めながら、同期へのお祝いメールの文面を考えあぐねて時間が過ぎていきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。何らか反響をいただければ、次の記事への糧になります。