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一通りの説明の後で

一通りの説明の後で、N先生は、付け加えました。「化学療法で生殖機能が低下するといわれていて、若い患者さんの中には、精子凍結される方もいます」と。

大して若くもないEさんは、「その希望は、ありません」と即答します。結婚なんて。まして子どもなんて。でもその後で、その即答ぶりに自分でも驚きます。

「まぁ、お金も掛かりますからね」とN先生に優しくいわれて診察室を出て、誰も知る人のない待合で1人、会計を待っています。

俺は、結局、子どもも残さず一生を終える。そんな今更な感慨にとらわれます。「ここから先は、余生なのだ」と、不意にその時、Eさんは、思いました。

一生は短い
何かできると思う間があって
何でもできると思う間があって
何にもできないと思う間があって
何もしない間に一生が終わる

遺伝子だけでも残そうと焦る間があって
遺伝子以外の何かを残そうと焦る間があって
結局は遺伝子以外の何ものでもないのなら
生物の一生は途方なく永い間という結論になり

何はともあれ 次の飯にありつくまでに
動き回って一日がまた終わる

中島みゆき“一生と一日“)


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