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先刻から(1)

先刻から、隣の席の男は、具合が悪そうな空咳が治りません。「家に帰れよ」と顔を背けます。ここでわざわざウイルスをまき散らす、その神経を疑います。

その反対の席では、関係性のよく分からない男女が演劇論を戦わせます。「家でやれよ」と一べつします。演技じみた女の笑い声が不快に響きます。

家に、帰れ。世の中は、ウイルスや、不快に満ちています。それらをいとう人間たちは、家に籠もって、じっとしている方がよい。

そう諦めて、しょんぼりとカフェを後にしました。



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