数箇月に1度、なぜか決まって仕事中にケータイに父親から着信があった。夕方、着信履歴に気付いて、「何事か」と胸をざわめかせて折り返す。
「元気か」「まぁ、それなりに」。「仕事は忙しいか」「まぁ、それなりに」。
「たまには帰って来い」「まぁ、そのうちに」。
父親の用件は、毎度それだけで、彼以上に不器用な私も気の利いた返しをせず、2人の会話はいつも核心に至らなかった。そんな電話も、次第に減っていった。
同じ頃、母親からの手紙には、この頃父親の物忘れがひどくなって…とあった。無口な父親が、あの頃、電話をよこしてきた理由は、いまだによく分からない。