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盛りを過ぎた桜の木の下を

盛りを過ぎた桜の木の下を、おじさんに連れられた老犬が、ノロノロと歩んで行きます。朝の通勤の途上、私たちは、長針と短針のようにここで擦れ違います。

昨年の今頃は特段、気にもしませんでした。けれどこのところ、老犬は、すっかり弱ってしまい、今日は、道に座り込んで足腰が立たなくなってしまいました。

おじさんに腹を支えられて踏ん張っている老犬の後ろ足を眺めながら、それが「死を思え」との教えを携えて人に遣わせた動物のように見えてきました。

淡々と咲いて淡々と散っていく桜に心を揺さぶられながら、私は、今年は共にこの花を眺められなかった友人たちのことを思っています。

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず(劉希夷「代悲白頭翁」)

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皮膜
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