苗字を変えるということ(前編)
結婚することになった。
そして改姓することにした。
わざわざこんなことを言っているのは、僕が男性、つまり「一般的に苗字を変えない方」だからである。
それなのになんでそうしたかといえば、僕が(少なくとも彼女=妻に比べて)苗字に全然こだわりがなかったから、としか言いようがない。
先に言っておきたいのは、苗字にこだわりがなかったからといって、家族と仲が悪いとか家柄がどうとか、そういった話は一切ないということ。あくまで二者択一を迫られたのでそうしたにすぎない、ということである。
(強いて言えば、僕も彼女もひとりっ子だが、僕にはいとこが何人もいてすでに家庭を持つ人もいる一方、彼女にはいとこすらいないので、苗字の多様性という意味で彼女に合わせる方が良い、というもっともらしい理由は一応ある。)
なお、あくまで変えるのは戸籍上の苗字だけで、仕事上や友人との名乗りでは今まで通り(=旧姓)の名乗りを可能な限り続ける予定である。友人各位においては基本的に今まで通りの呼び方で呼んでもらえる方がうれしい。
大事にしたいもの
何もかもどうでもよかったわけではない。僕にも大事にしたい、家族に関する価値観はある。
家族のつながり・血縁
自分は家族に関しては恵まれている方だと思う。中学受験をし、大学院まで特に経済的に苦労することなく進むことができた。
もちろん揉めることはあったが、「親だから」と頭ごなしに否定することはほとんどなく、対等に話を聞いてくれた。
親戚に関しても、少なくとも付き合いのある範囲では、自分に敵意を持った意地悪な人はいなかった。
そんな家族、親戚のことはこれからも大事にしていきたいと思っている。
下の名前
親が自分につけてくれた名前のことは大事にしている。正直、「自分の名前が大好きか?」と聞かれると、電話で伝わりづらいとか微妙な点はあるのでなんとも言えない。
しかし、「名前は親からの最初のプレゼント」というのはそのとおりだと思うし、両親がいろいろ考えてつけてくれたものである。幸いキラキラネームの類でもないので、それは大事にしたいと思う。
興味がないもの
苗字そのもの
下の名前とは逆に、苗字にはそこまで興味はない。というのも、苗字は我々や父母の世代にとっては「所与のもの」だから。
最初に苗字を受け取った先祖にとっては、理由をこめてつけられたものかもしれず、それなら下の名前と同じくらいの価値があるだろうが、それはもう100年以上前の話である。僕にとっては今の苗字でも「鈴木」「佐藤」でも、なんなら「バイデン」とかでも、所与のものだから変えることができない。もはやただの識別子、identifierである。「A」とかでも成立してしまうので、そこに重要性を見出すことができないのだ。
これが本当に珍しい苗字であれば話は別かもしれないが、僕の場合はそこまで希少でもない。
家柄
苗字ですでにそんな考えなので、家柄なんてものには余計に興味がない。天皇家とかでもないのに家柄なんて言われても…という話である。
そもそも「家柄がいい」というのはなんなのかよくわからない。「先祖が大名」とかであってもそれは先祖が偉いのであっていまには関係ないし、「有名企業の社長」とかだったとしたら、それこそ血縁関係を大事にすることで十分まかなえると思っている。
苗字をどうするかの相談
彼女
彼女とはもちろん苗字の相談をしたが、彼女は「(僕と同じく)自分の苗字や家柄にこだわりがあるわけではないが、どっちかといえば今のままがいい。女性が変えるのか当たり前、という価値観は受け入れがたい」という感じの考えだった。
それなら苗字に興味のない僕が譲ればいい話である。すんなりと決定した。
相手の両親
基本的には自分たちで決めて良いという話であった。一方で「本当にいいんですか?」とも言われた。本当にいいのでそれで終わった。
自分の両親
ここが不思議なところで、母(つまり苗字を変えたほう)が長らく難色を示していた。
父は「夫婦別姓が制度にあるならそうしてほしかったが、今はないので仕方ない。二人がそういう意思ならそれで構わない」とすんなり理解してくれた。
問題は母で、理由になっているのかどうかも微妙なことをたくさん聞いては粘ってきた。
「養子に行くのか」
そういうことではない。法律上も親子関係は変わらない
母だって苗字を変えたけど父方の祖父母の養子になったわけではないでしょう?
「介護はどうするのか」
自分がやるに決まっている。
血縁は大事だし、自分は一人っ子なので「苗字変えたから他の人に任せます」なんてことをそもそも言えない。
「墓はどうするのか」
これも一人っ子なので僕が管理する
そもそも死んだあとの話で生きている人を縛らないでほしい
といった具合である。
これは勝手な推測だが、自分が苗字を変えた経験があるからこその不安ではあるのだろう。しかしそう言われても困るものは困る。
結局最後は「結婚は両性の合意で決まるのだから、そこに何を言われようと意思は変えない」と宣言し、母も母で周りからの説得を受けたようで、苗字に関しては何も言わない、と言ってもらい、今では良好な関係に戻っている。
親戚
基本的には気にしないと言ってくれる人が多かった。
たまに「まあ、うちの息子にはそう簡単には認めないけどね」という人もいたが、そういう人も実際直面したらどうするのかはわからない。そこは僕の関わる問題ではないので何か言うつもりもない。
父方祖父母
ここをいちばん心配していた。祖父は僕が東大に合格したときに「我が家から(本人以来の)東大が出た」と喜んでくれたし、就職の時は印鑑もくれた。それだけに苗字を変えるのは、怒りはしなくても悲しまれるのではないかと思った。
しかし結論から言えば、笑顔で「決めたことならこちらからは何も言わない」とすぐに言ってくれた。もちろん寂しさはあるかもしれないが、すんなりOKを出してくれたのはほっとした。
前編まとめ
こんな感じで苗字を変えることにした。
結局僕が苗字を変えることにしたが、僕が一番言いたいことは「苗字でもめて結婚がうまくいかなくなるなんてもったいない!!」ということである。夫婦別姓などいろんな議論が巻き起こっているが、できるかぎり当事者たちが生きやすい方にルールが変わっていったらいいなと思っている。
苗字問題に悩むカップルには是非参考にしてほしいし、その周りの方々にも、もし読まれたならば、一度考える機会にしてほしい。
そして、こんなnoteをわざわざ書かなくてもいいような社会になってくれるとうれしい。
後編は、実際苗字を変えてみてどうだったか(手続き面など)をしばらくあとに書こうと思う。