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榧 -かや-

うちにはオスとメスのかやの木があります。
先祖が植えたとすると、100年くらいたっているかもしれません。

榧は、宮城県以南の太平洋側を原産とするイチイ科の常緑針葉樹。韓国の済州島にも分布するようですが、屋久島より南には見られないようです。

成長は遅いものの樹齢が長く、種子から採取する油を燈明に用いたため、各地の神社仏閣等に巨木が残るようです。
榧材で最もよく知られている用途は碁盤・将棋盤で、最高級品とされています。
その他には加工のしやすさや美しさから仏像などの彫刻に用いられてきたようです。また、水に強く腐りにくいことから建築材や風呂桶、船舶などにも使われていましたが、榧材の生産量が極めて少ない為、現代ではほとんど使われなくなっています。
種子には独特のヤニ臭さがあるものの、灰汁ぬきして天日にさらしたものを炒めれば、ピスタチオやアーモンドよりも香りの高いナッツになり、戦後は食糧難を支える果実となっていたようです。
種子の胚乳はそのまま食べることができ、これを用いたカヤアラレなどの銘菓があるそう。
とはいえ、緑の実はすぐに剥がせますが、中の胚乳を取り出すのは固い殻に包まれているので、すごく大変です。
トンカチで割って殻から外してみましたが、食べられる部分はほんの少しで、おいしいかというと、そうでもありませんでした。

ペンチを使って割ります
フライパンで空炒り


縄文及び弥生時代の遺跡からも保存された榧の実が出土しており、古い時代には朝廷に献上された記録もあるなど日本人との関係は古いことがわかっています。

お能に「卒塔婆小町」という演目がありますが、
そのお話の中には、榧の実がでてきます。

卒塔婆小町とは、美貌と才覚で世の男達を虜にした小野小町(老婆)に、深草少将の魂が乗り移り狂気の姿となる、小野小町のひとりの人間の盛衰を表すお話。
老女物と言われ、かなりの上級者でないと舞う事も難しいようです。

小野小町が「百夜私のところに通ったら、お気持ちを受け入れましょう」と深草少将と約束をし、深草少将が人目を忍びひたすら通うと、100日目に大雪に埋もれ死んでしまうという悲しいお話。
通う度に、小町の家の門に榧の実を一つずつ置いて日にちを数えたとされています。
99個の榧の実が置かれた様子を想像したり、
深草少将は、西行だったという説もあるということを知り、益々、榧の実のお話が印象深くなりました。

ただ、庭の榧の実がたわわに実り、食べてみようと悪戦苦闘するだけのことだったのに、世阿弥へのロマンに繋がり、とても愉快だなーと感じています。

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