宿題【1.黄昏】
部屋に差し込むオレンジ色の夕日は、いまだに真夏の熱を残しながら、机も箪笥もすべてを同じ色に染めあげる。
その部屋の中には無言で机に向かう少女が一人。机の上には高く積み上げられた夏休みの宿題。すべて手つかずの状態だ。
そして今日は夏休み最終日。つまり彼女は残された今日という一日、いや、翌朝までの十数時間ですべての宿題を終わらせなければならない。
彼女に弁解をする余地はない。夏休みの初日から宿題はできたはず。しかしやらなかった。
初日から全力で夏休みを謳歌した、全力で楽しんだ。宿題をやらなかったのではない、やりたくなかったのだ。
『明日もしも、真っ白な宿題なんかを提出してしまったら』彼女はそう思うと背筋に悪寒を感じた。
彼女には時間が無い、そして言い訳もできない、そんな焦りは彼女を追い込む。人は窮地に陥ると、とんでもない力を発揮するというが彼女はまさに今、その底力を発揮している。
夏休み初日からの放蕩の日々を払拭するかのように、凄まじい集中力を持って宿題に取り組むことができているのだ。
その走るペンは止まることはない。淀みなく次から次へとものすごい速さで問題を解いている?
いや、解いてはいない。適当な数字や文字をなんとなく、その時の気分で次々と書き込んでいるだけだ。
だって、彼女には時間がない。真面目に問題を解いている時間なんて彼女には残されていないんだから。大丈夫、記載さえしてあれば言い訳をすることは可能だ。彼女はそう信じ込み一心不乱に宿題に取り組むのであった。
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