超不定期連載-国際宇宙法四方山話【0.はじめに】
noteを不定期で書こうと思う
オランダのライデンという街はとても美しい。
僕は、この街に宇宙法を学ぶためにやってきた。
※2023年3月時点で僕はライデン大学国際航空宇宙法研究所(Leiden University: International Institute of Air and Space Law)の修士号課程で勉強をしている。
ライデン大学はカナダのマギル大学と並び航空宇宙法において著名である。なぜオランダとカナダなのか、いろいろな人に理由を聞かれるが、理由はよくわからない。
ライデンという街は美しい。都会の喧騒はなく、街は運河と風車とお洒落な雑貨屋やカフェが並ぶ。学生が多く、自転車で街を行く学生の多さは京都を彷彿とさせる。
僕は、弁護士的には6年目に突入したところであるが(2017年登録:70期)、司法修習時代にJAXAで研修を行う機会をいただいて以来、草の根的に宇宙関係の活動をしており、ありがたいことに宇宙関係の仕事も相当程度増えてきているところではあった。宇宙にはロマンを感じるが、それ以上に宇宙というよく分からない領域にルールを作っていくというその過程に強烈な関心を惹かれた。どちらも好きだが、どちらかと言えば、宇宙ではなく法律寄りのオタクなのではないかと思う。
さて、突然意識の高そうでそうでもなさそうな記事を書き始めたのは理由がある。
まず、大学院での授業とその際に読んだ文献について、脳みそに入れたまま満足をしていると、三十路に突入した僕の脳みそからはポロポロ抜け落ちてしまう気がしていて、何か備忘的に書き留めた方が良いのではないかと思ったことである。
ただ、より重要な点として、日本では、宇宙開発の技術力の高さや宇宙ビジネス市場の拡大の割には、国際宇宙法についての学問的な関心が十分に浸透されていないのではないかという点がある。もちろん、少なくとも会社法、金融法、知財法などの企業法務の王道と中核を為す法領域と比べれば、そもそも(航空)宇宙法という概念は多分にニッチではあり、あくまで特定の産業を規律する法にすぎない。実際、航空宇宙法を海外で学ぼうとした時に、現実的にある選択肢は多くない。なお、日本では慶應義塾大学が宇宙法研究センターを設立しており、日本における宇宙法のアカデミックの拠点となっている。
ライデン大学の授業では、日本の宇宙開発技術は世界でも注目されていることがよくわかる。はやぶさプロジェクトや、ispaceやAstroscale等の民間事業者まで、毎日のように授業でとりあげられる。しかし、しかしである。ライデン大学で国際宇宙法を学ぶ日本人はとても少ない。聞くところによれば年によるものの2年に1人くらいのようだ。(そもそもの人口数によるところもあるが)インドや中国からは相当数の留学生が来ている。宇宙開発や宇宙ビジネスの文脈における日本の国際的なプレゼンスに比して、国内外で国際宇宙法を学ぶ人がまだまだ少ないのではないか、と思っている。もちろん、統計をとったわけではない。個人的な感想だ。
企業法務弁護士の多くは5年から6年目に米国に留学をし、米国において欧米のビジネス法務を学び、NY州の資格を取得する。これによって、少なからず欧米の企業法務の知見を学んだ日本人弁護士が毎年一定数生まれている。しかし、宇宙法は1年間が空くと議論が古くなる可能性が極めて高い法領域であるにもかかわらず、どれだけの方が国外で宇宙法の議論に触れているのだろうか。日本の宇宙開発や宇宙ビジネスの発展に比して、海外の議論を取り入れる法律家が足りてないのではないかというぼんやりとした感想を持っている。
ということで、なるべくできる発信はしておき、誰か興味を持ってくれたら嬉しいなという高尚な(?)気持ちが背景の1つにある。
宇宙法は特殊な領域である。
近い将来発生する問題や実際に発生している問題を取り扱う他の法分野と異なり、宇宙法の議論のいくつか(多く)は、それが実を結ぶのは遠い将来かもしれない。僕がどれだけ宇宙旅行と法律の議論を深く学んだとしても、僕が生きている間に、一般の人々が気軽に宇宙に行ける時代が到来する保証はない。それでも、この議論がいつか人類の宇宙活動を支え、規律するものになると信じ、議論は進んでいく。
そんな宇宙法のよもやま話を不定期で書いていこうと思う。需要はないかもしれないが、もしこの記事を読んで、同じように宇宙法を志し、いつか一緒に議論ができたら面白いなと思っている。
大風呂敷を広げた感を出しておきながら早速ではあるが、記事は以下のルール(言い訳)にしたがって書いていこうと思う。
この記事は、Leiden University (Advanced LL.M Air and Space Law 2022-2023)のSecond semesterで開講されたInternational Space Law and Policyの講義とその教材をベースに、項目立ても「概ね」当該講座に従って以下の通りに整理する。
History and Context of Space Law
Space Treaties and Space Policy
Military, Safety, and Security Issues
The Environmental Context
Space Applications
ただし、上記の順に書くことをせず、好きな順番で書く。
高尚な(?)背景コメントをした割には、一定周期で記事を書くことをコミットできる自信が全くないので、超不定期となる。次回更新がクリスマスとなる可能性もある。
記載内容は個人的な見解であり所属組織の見解を示すものではない。また、内容の正確性や最新性は必ずしも保証しない(=なんらかの調査のリソースとなることは想定していない。)。
主要な文献
最後に宇宙法に関する国内外の主な文献を、僕の知る範囲で紹介する。一番上は拙著であるが、日本で宇宙法を学ぶ際のバイブルは、3つ目の「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」である。これを持たねば始まらない。
海外の文献のうち、1つ目がライデン大学で使用される教科書(担当教授が執筆者)である。宇宙ビジネスの契約実務との関係では、2つ目は必読である。
(2023年3月4日)