朗読:やなせなつみ〜「ホンモノ」は静寂さえ語る〜
「マッチング・アベニュー」はSFをテーマにした少し未来の日常。でもテクノジーはほのかに薫るほどで、主題は人と性と運命の物語。
ドラマ的な大きな起伏はなく、淡々と穏やかに優しく語られる物語。ささやかで当たり前にそこにある誰かの奇跡の物語。
本編のコトバには語られず、著者だけに内包していたそのイメージの欠片たち。やなせさんはそれを全てわかった上で、声にして魂を込めてくれた。いやそのイメージさえ超えてドラマにしてくれた。
2人の距離、リビングと心の温度、沈黙の息づかい。初冬の凛とした空気、季節や街の雑踏。落ち葉を踏む音、小雪の静寂。
目を閉じ、声を聞いているだけで、それらを全て感じとることができる。「ホンモノの声優」にはBGMやSEなど野暮な演出は要らないんだ。
過度にドラマティックに仕上げることが必ずしも正解ではない。だからこそ、このテンポと温度で淡々と語り続けることは、きっととっても難しいんだと思う。
「電脳虚構」の10編は音楽のアルバムをイメージして、展開と曲順を選ぶように構成している。
この「マッチング・アベニュー」という話は、アルバムのラストソングなのだ。(終章「レトロフリーク」はボーナストラック的な位置付け)
やさしく寄り添うように緞帳が下りる、そんなイメージで執筆した話。
著者のもとを離れて、新しい命が吹き込まれる。これがどんなに嬉しいことか。
著者本人が執筆したことも忘れ、聴き惚れてしまう。邪推な客観視などする余白もないくらい。思わず「ゴクリ」と2人の結末を祈ってしまうくらい。
これも一重にやなせさんが、この物語を愛し、隅々まで想いを馳せ、活字の世界から解放してくれたこと。これはスキルだけじゃ成し得ない精神性によるものだと思う。
もちろん「人生テトリス」もそう。荒野の寂れた街の乾いた風の砂埃さえ感じる。
これが表現できるということは、きっとただ事じゃない。私は声優という仕事、その内側のことについては全くの素人。だけどそれだけはわかる。
日々たくさんの素敵な人に出会うけど、私はその「出逢いの運」にいつも恵まれすぎていると思う。
「善意の都市」をその尋常じゃない熱量で朗読してくれた水乃しずくちゃんに、「電脳虚構」の編集に尽力してくれたハクメイさんに、そして関わってくれた大切な人たちに、この作品を読んでくれた全て人に感謝。
そして、この朗読をしてくれた、やなせなつみさんに感謝。
そしてそして、これからこの物語を知ってくれる未来にあなたに感謝。
朗読作品、原作の小説は「note創作大賞」にノミネート中です。
その先の未来のあなたの感想を待っています。