見出し画像

砂山影二「銀の壺」掲載原稿 1

 砂山影二についての文学研究は進んでいません。きっとこの世で私以外の研究者と会ったことはありません。このままでは、また、影二が文学史の中に埋もれてしまい、いずれ忘れられてしまうのではないかと危惧しております。つきましては、当方で抑えている、影二研究に必要なソースを全て、公開しておきたいと思います。文学研究者自体がどんどん少なくなっている現状もありますが、どなたかの琴線に触れ、私のあとの研究を引き継いでもらえる方がでてくることを期待しています。
 本日より砂山影二が雑誌に発表した原稿を紹介していきます。第一回目は、「銀の壺」の創刊号です。ここから本格的な影二の文芸活動がスタートしています。「同人同語」は、編集後記のようなものです。この頃はまだ「中野草夢」という名を使っていました。

「銀の壺」創刊號


 大正七年四月拾日印刷納本 ・ 大正七年四月拾五日發行

P17   投げやりの心


中野草夢

投げやりの心となりて味もなき煙草をふかすわれはさびしも

舞ひのぼる煙草のけむり眺めつゝ遠き昔を思ひ出づる日

投げやりの心かなしやどうにでもなれと思ひてたばこなどのむ

酒ものめ煙草ものめと投げやりの心となれるわれはかなしき

                左の五首をわが親友Kの従妹なるS子の
                御許にさゝゝぐ
                その夜君が室にて君とKとわれと三人久
                方ぶりにて夜ふくるまで語りし
                Kが故郷より帰りし翌日の夜なりき                       

まことなりはたち以前は夢なりと君はかく云ふ瞳かなしも

ふと見たる君が横顔美しくわれ故知らぬ涙ながせり

あさましきわが悔なれやTといふ女の名前を君も云へるよ

心ゆくまで泣いて見たしとわれ云へばわれもと答へし君が瞳は

葡萄酒に醉ひたる心地かなしくもわが生ひ立ちを語らんとしき

P75 同人同語

■中村草夢
 去年私の出した「草笛」もたつたひと聲、かすかな音をひゞかしたばかり、幽霊の如く消江失せてしまつた。
 その後夜光詩社の人々と知り、こゝに『銀の壺』を發刊する事になつた。
 以外におそくなつた事をおわびして居く。関節リウマチとか云ふやつかいな病気にかゝつてしばらく起う事ができなかつた。
 毎月出せるといゝんだけれど、何しろ未熟なのにもつて来て、八十頁もあるんだから、一日に四頁づゝ印刷しても二十日かゝる。
 晝の中は家の方に手傅はなければならないので、夜工場がしまつてから、小僧を相手にコツコツやる。すぐ十時は過ぎてしまふ。ねむたくなる。本をよむひまもない。けれど、毎夜四頁づゝ出来れば毎月出せるんだけれども、夜業のある時は一頁も出来ない。止むを得ず、隔月に發行する事にした。
 また所々に變な活字を見受けたであろう。びんぼうな活版所は大方こんなものである。だんだん改良したいと思つてゐる。
終りに投稿される人々にお願ひしてをく。
原稿の文字は明瞭に書いて欲しい。判断に苦しむ様な文字には殆ど閉口う。そしてせつかくの歌も目茶目茶になる様な事があるから

いいなと思ったら応援しよう!