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夏の終わり。ろうそくを灯して、夜

ろうそくを夜に灯す習慣なんて、20年ほど暮らしていた実家にはなかったものでした。

でも、実家を出てテレビのない生活をするようになって、夜の静けさが好きになったのです。


仕事を終えて夕ご飯をいただいてほっとする時間。やっと窓を開けられるような気持ちいい夜は、道ゆく人の笑い声と鈴虫の声が混じり合って聞こえてきます。


特にすることもないので、ろうそくを灯すようになりました。

ろうそくをいくつか灯せば、本を読めるくらいの明るさにはなりますから、気がつけばろうそくの近くで本を広げて過ごす時間ができました。


文字を追うのに疲れたら、炎の揺らめきをぼうっと眺める。

隣で本を読んでいる彼に、ふと話しかける。


そうやって過ごす時間は、ゆっくりゆっくり流れていくように思えました。


ろうそくの灯りの周りに、今このときの流れをぎゅっと集めて。炎が、ゆっくりと時の流れを薪にしていくような、そんな時間。


いい時間なんですよ、たまらなく愛おしいほど。


もう寝ようと、ふうっとろうそくを消した時の、ちょっと焦げたあの匂い。

それもまた、いいんです。




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森野日菜子*ライター
言葉で、日々に小さな実りを。そんな気持ちで文章を綴っています。