3/3 歴史寓話を鑑賞していかに歴史寓話と知るか 「企て」篇

 本論・2(承前)

ミスリードである。実際には微妙な差異から全体的に整合性をチェックする事で歴史や寓意と作品を繋げる機能を持ち、更に意味や違和による強調等を加えることで接続力はより強固になる。

ここで「企て」の強さ・確実性を測る「鋲機能」という尺度を使う。鋲機能は強調されたり、関連する意味があったり、歴史同様の物語構造を持つ先行事例から引用したり、様々な文脈を踏まえている事を示す等で強化出来る。西尾維新、暁月あきら『めだかボックス』では「漆黒の花嫁衣裳」編以降、言葉をクローズアップした路線になり、字面、読み、言い間違い、誤変換、換喩等の操作や暗号の使用による「企て」が認められる。おがきちか『Landreaall』は作品タイトルで以て全て(all)はこの国(Land)の現実(real)と重なり繋がっている(reaall)事を表し、伊藤計劃は『A計劃(プロジェクトA)』が「連合国側から見た第二次世界大戦」のプロットである事を受けてペンネームに取り入れた(敵が優勢{連合国の劣勢} → 強力な味方の参戦{アメリカ参戦} → まず陸の敵を攻略{対独戦} → 海の敵の本拠地を攻撃{対日戦} → 新兵器で首領を爆殺{核攻撃} → 事後の方針が二転三転{逆コース})。

筆者がスタンリー・フィッシュから得た知見は「意味・形式・解釈は一体化しており、分離出来ない」というもので、どれか1つを決めてしまえば残り2つはそれに準じて決める事が出来る。これに依れば歴史寓話論を「欲しい意味」に従って形式・解釈を恣意的に示しているようにも見做せるため、高い鋲機能は歴史寓話の存在証明としてもある程度は必要だ。

鋲機能を高くする事は作者の技量を示すものでもあるのだが、作品全体を見渡し、プロットと「企て」の総合的整合性を精査するには多くのリソースを消費する為、鋲として強い「企て」のない作品は現状では説得力を得難いので分析を後回しにする傾向が筆者にはある。歴史寓話のシステムを知らない受け手が大半である以上、説得力の高いものを優先的に分析せざるを得ない。特に「自身が歴史寓話作者である事」そのものを「企て」とする場合、先行作の分析結果を前提として結論付けねばならず、分析コストが跳ね上がる。


 結論

説得力、分析(説明の為の)コスト、受け手を楽しませる為、強い鋲で歴史や寓意と作品を接続する事を作者は考えてもいいのではないか。




(終わり)

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