小田桐圭介「ヒュールルルーのガーガーガー」「腕無しのぴゅる子」 電脳マヴォ漫画分析001

(この分析シリーズは、主として歴史寓話論による分析を行う。それは、「戦後日本にとって重要な歴史解釈・歴史認識や一定期間・範囲の国際・国内情勢をプロット化し、そこに登場する個人・各組織・諸集団やそれらに内在する諸特徴をキャラクター化し、それらを偶然として退けられてしまう可能性を排除するべく(物語内外問わず)様々な手法によって歴史や寓意と作品との関連性に向けて鑑賞者への注意喚起を企てつつ、物語全体を寓意として設計・解釈・構成する試み」と説明した風刺寓話の仮説に準ずるものである{歴史寓話論に関する関連リンクは下記})

(この記事は、電脳マヴォに掲載中の小田桐圭介「ヒュールルルーのガーガーガー」「腕無しのぴゅる子」のネタバレを含みます。予めご了承ください。無論、作品を先にご覧になられる事をお勧めします{18歳未満閲覧不可の作品もございますのでご承知ください})

竹熊健太郎によると、あと数か月で電脳マヴォの無借金経営が終わる、との事なので、最悪無くなる前にやっておこうと思いまして。


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「ヒュールルルーのガーガーガー」

フルーツ。果物の「果」は「日」と「木」の組み合わせで出来ている。日本及び天皇の寓意を示す。

何もせず、ただ与えられるものを受け取り続ける幸せな少女と、その顛末。いわゆる平和ボケ(と書いてまだ通じるのだろうか?)が齎す結末。

ヒュールルルー。風の音のようでも、通信機のノイズのようでもある。未来からの通信内容は、結局都合良く幸せでい続ける事が出来ないと示す。あるいは不確定な未来も。電波や音波は「波」であるから基本的に円状や球状に広がるものであるし、「機械」のスピーカーも円形に描かれている。円は「日の丸」の寓意。ヒュールルルー、という音自体が曲線的な「流れ」を感じさせ、風とすれは「神風」を示すだろう。

ガーガーガー、はアメリカの「カ」を含み、濁点付きの雑音とすれば「雑」に「木」が、「音」に「日」が含まれる。

10年後の声がスピーカーから流れた後の展開を見ると「大本営発表を信じ続け、終戦の詔勅を聞き、敗戦後へ」というステップにも見える(平和ボケの方と合わせて多重化しているのか)。真っ暗、には「日」が(真の下部は「大」に類似する)、星は「日」本に「生」きる事と「星」条旗の国、アメリカの両義性がある。

手の組み方。手を合わせるのではなく指を組む、神道的なものではなくキリスト教的なもの。

小さい頃のあたし。国民。大きくなったあたし(仮)は国家だろう。作中の世界観における連環・輪唱型寓意と推測できる。

白(「日」)い部屋が満天の星(アメリカを示す)空に。占領下・戦後の日米関係へ。


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「腕無しのぴゅる子」

ぴゅる子。「ひ」は「日」の読み「ヒ」。半濁音は円形で、「る」は「日」の欠損と流線化と円の組み合わせ。「ゅ」も「日」を90°回転させた欠損・流線化。「ぴゅる」という音韻は曲線や円、回転をイメージさせる。日の丸の寓意。


1ページ1コマ目の背景にキク科の花。ミカドの寓意。

橋の下の段ボール。「橋」に「木」が。「段ボール」は「紙→神」。天皇の寓意。


4ページ。日露戦争もしくは日本から見た第二次世界大戦における序盤戦の戦勝。年長者は列強、ロリコンは植民地支配を望む帝国。あるいは童貞なので彼こそ征二郎に先立ち象徴天皇制へと移行する大日本帝国の寓意か。


7~8ページ。腹部の穴と円形の万力。円は日の丸を示す。頭部を腹部に差し入れる行為は胎内回帰願望であり、また決して受胎せず、且つ征二郎を死に
至らしめる為、天皇との一体化(絶対主義天皇性)、大東亜共栄圏構想の不成立、快楽を伴う敗北と死を意味する(陶酔を呼ぶ悲壮感や国に尽くす喜びだろうか)。

征二郎の「征」は征服、軍事的、帝国主義的な意味。


9~12ページ。敗戦の責任と象徴天皇化。身体の欠損は軍事力の制限。川への水没は敗戦を(この場合は現人神から人間への移行をも)示す。

12~15ページ。真木メキ子。「真」と「木」。「メ」はア「メ」リカと敗戦による「×(バツ)」との多重化か。非合法の医者である事は占領政策の不当さを、「お姉さん」は戦後の市場主義、高度経済成長との関連を示す。戦後日本とアメリカの重合寓意。

万力は「万世一系」の「力」、人の遺伝子と合わせて現人神を示す。戦後と同時に新たに戦前、戦中をも描く反復、ストーリー上での多重化。


16~20ページ。食事は敗戦の内面化、ぴゅる子と敗戦する政府・国民の同一化、暴虐と服従、非武装化。同時に反復する第二次世界大戦において今度はぴゅる子が前面で傷つく事になる。又、戦後の文化空間における自虐史観や敗戦の事実を作品に内包させる歴史寓話の手法やその寓意さえも娯楽的に消費されている可能性にまで、このような言及の射程があるかもしれない。

歌いながらの暴行。歌は神道にしろキリスト教にしろ関連があるが、それよりもむしろ映画『レザボア・ドッグス』や『時計じかけのオレンジ』を連想さ
せ、「展開・文脈上の刻印」(詳細は下記リンクへ)として機能させているのかもしれない。歌詞から元ネタを辿れるようだが、詳細や分析は控える事とする。


20~21ページ。虐げられる事と強制労働。動員・徴兵や戦後の過酷な労働の重合化か。戦争経済と高度経済成長の多重化。

メキ子の笑い方。「うしゃしゃー」はローマ字表記で「USYASYA」に変換可能とすれば「USA」を含む。同様に「おほほー」は「OHOHO」、円形と「日」の欠損による構成。


22~24ページ。風。戦中であれば神「風」、又は自然崇拝の面を示すか。戦後であれば人としてある象徴天皇制からの更なる変化の方向性か。

笑顔でい続ける事。皇族に印象深い特徴である。

ぴゅる子の笑い方。「えへへ」は「EHEHE」、「日」の欠損形によるもの。


25~29ページ。征一郎。「征」の字。帝王学。「帝」国主義、ミカド。後ろから。支配欲を満たす体勢(?)。「んのほぉぉおおぉ」は「NNOHOooOOo」、NIPPONの「N」、円形と「H」は前述。

反復、忍耐の笑顔、敗北の快楽(と陶酔?)。戦後であれば再来・再来対策型(註・詳細は未言及)。


30~34ページ。「人は死んだら無に還るだけ」。無→ゼロ→0、日の丸の寓意。無に還る、始めに戻る、反復への言及。「意味はきっとある」「生きて
いるあたし達のほうに意味がある」。対象ではなく自身に、フィクション・作品ではなく現実・読者の側にこそ意味がある。歴史寓話の仕組みへの言及(但
し、それが通じるかは分からない{「ふん…/だといいけど」})。

「どんな無意味に見える行為でも」「人と人は繫がっていて影響を及ぼし合うということよ」。歴史寓話の文化的脈絡、その拡大、継承、展開の指摘。

「ビュウウ」、「ピューピュー」、「ひゅるりひゅるり」、「果て」。

「赤福宮」。「赤」は日の丸の赤。又「赤福」は伊勢の名物で神道ゆかりの土地。「宮」は神宮あるいは皇族の呼び方である宮様からか。

「ぴゅるっぴゅるっ」、「ピュルッピュルッ」。共に飛び跳ねる擬音。軌道は放物線、半円に近い形を描く。ジャンプはアナグラムで「ジャパン」に類似する。



(続く)

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歴史寓話論関連リンク


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比那北幸@批評
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